2024年2月2日
Q.シンガポール法に関する豆知識
目次
Q. シンガポールの法体制はコモン・ローに基づいていると聞きました。具体的にはどのようなことでしょうか。
A. まず始めにコモン・ローとは、1066年以降に英国法において生み出された法概念で、国王の裁判所が伝統や慣習、先例に基づき裁判をしてきた中で発達した法分野のことをいいます。コモン・ローについて理解するには、第二次世界大戦におけるイギリス軍による植民地時代を想起するのがいいかもしれません。シンガポールは1965年8月9日に建国されましたが、コモン・ローの歴史は19世紀前半にまで遡ります。
ご存知の通り、トーマス・スタンフォード・ビングレイ・ラッフルズ氏は、1811~1816年にオランダ領東インド総督、1818~1824年にはベンクーレン副総督を務めました。そして、シンガポールを開港したのは1819年のことです。このような歴史的背景からシンガポールではコモン・ローが導入されました。しかし、全ての法律を英国法からそのまま採用しているわけではありません。余談ですが、「ラッフルズ」、「スタンフォード」、「ベンクーレン」は、地名、名称等に使われており、シンガポール生活において大変馴染み深いものになっています。
Q. シンガポールにおいてコモン・ローを採用しているということは、全ての法律が英国の司法制度に従っているのでしょうか。
A. シンガポールにおいて最初に制定された法律は刑法となります。シンガポールにおける最初の刑法である海峡刑法1871(Straits Settlement Penal Code 1871)は、インドの刑法を忠実に再現したものでした。シンガポールでは、今でも死刑や鞭打ち刑があります。一方、英国においては、鞭打ちは存在せず、1998年に死刑は廃止されました。シンガポールにおいて鞭打ち刑は、イギリス植民地時代に導入された体罰であり、18歳から50歳までの男性で、医師により鞭打ち刑に対応できるとされた者だけが対象となり、最大24回と定められています。鞭打ち刑は、かつて海峡植民地であったマレーシアやブルネイでも行われています。
次に、シンガポールの住宅事情を見てみます。シンガポールには、住宅開発庁が管理するHDBと呼ばれる住宅があります。HDBは、国民誰もが家を持てるようにと作られたものであり、シンガポール国民のみに購入が限定されています。シンガポール政府は、家族を大事にしており、HDBの受注建築(Build to Order; BTO)の申込みが可能です。シンガポール人であれば結婚のプロポーズの代わりに、BTOの申込みに誘うこともあります。シンガポール統計局によれば、2022年において、全世帯の77.9%がHDBに住んでおり、コンドミニアムやその他集合住宅に住んでいるのは17.0%、一戸建てはわずか4.9%となります。近年、HDBの購入に際し規制が緩和されており、要件を満たせば35歳以上の単身者でもHDBを購入することができるようになりました。
一方で、登記及び移転に関して規定するシンガポール土地法は、オーストラリアに倣い、ロバート・リチャード・トーレンス氏立案の「トーレンス式登記制度(Torrens systems)」を採用しています。当該登記制度により、シンガポールではほぼ100%の土地が登記されています。そして、このような優れた管理体制の下、シンガポール政府は都市再開発庁による50年以上にも及ぶ長期的な土地開発計画を進めています。詳細につきましては以前の記事を参照ください。
Q. シンガポールではチューインガムは違法であると聞きました。本当でしょうか。
A. シンガポール貿易管理制度によれば、健康目的以外でシンガポールにチューインガムを輸入することは禁止されています。健康目的として合法と認められるものは、健康製品法(Cap.122D)において(1)乳酸カルシウムが2-5重量%、キシリトールが12-36重量%含むものである又は(2)無糖であり、ヘキサメタリン酸ナトリウムが1-2重量%含むものであると定められています。
また、研究、調査の目的でチューインガムを輸入することも認められています。上記と同様に、輸入者の義務等は規則で定められています。
つまり、チューインガムの所持自体は違法ではなく、チューインガムが全面的に禁止されているわけではありません。しかし、シンガポールにおいてチューインガムを輸入、販売する行為は違法となっています。シンガポールを訪れる旅行者が、チューインガムを手荷物で所持していた場合、税関は通常、違法品として没収します。ただし、乗り継ぎの場合やマレーシア西部からの旅行者の場合には、到着時に申告し7日以内に再輸出の旨の許可を申請する等、所定の要件を満たせばシンガポールに持ち込むことは可能となっています。ただし、このような場合、キャッチオール規制を遵守する必要があることは言うまでもありません。
Q. シンガポールにチューインガムを持ち込んだ場合の罰金等を教えてください。
A. 初犯の場合、罰金10万Sドル以下及び又は2年以下の懲役となります。 2回目以降の場合、罰金20万Sドル以下及び又は3年以下の懲役となります。1992年にチューインガムの規制が開始して以来、個人旅行者がチューインガムで有罪の判決を受けた例は報告されていません。