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座談会

2018年10月30日

東南アジア5ヵ国の人材事情

AsiaX:日系企業は各国ローカル人材に人気がありますか。

 

渡名喜:給与額では、国営の大手企業、日系以外の外資企業、その次に日系企業という順ですね。ただ、日本の文化が好き、日本語を使って働きたいという人はいます。マハティール首相が以前実施したルックイースト政策は「日本人の勤労倫理を学びなさい」というものでした。当時、留学生を大量に日本に送りましたが、彼らがその子ども世代、孫世代に伝えているという意味では、若者も日本を良く思っている可能性はあります。

 

古谷:ベトナムと日本の国家間の関係は非常に良好で、親和性は非常に高いです。しかし、意外にも日系企業で働きたいとは思ってないようです。ベトナムにも大学生の人気企業ランキングがありますが、トヨタが上位に入ってくるくらい。あれだけホンダのバイクが走っているのでホンダが出てきてもいい気がしますが…。
 ちなみに、韓国企業はSAMSUNGをはじめ非常に人気が高いです。韓国企業の場合、駐在員という感じではなく、ベトナム語を必死に勉強して現地化していきます。韓国国内の景気も厳しいですから、「帰ってこなくて良い。ベトナムのマーケットを拡大せよ」というスタンスです。結果、いま、ベトナムにいる日本人は2万人ですが、韓国人は約12万人です。大きな差がつきました。
 日系企業にとって期待できる要素もあります。ベトナム政府は、日本語学習に積極的で、国内の普通小学校で日本語学習を義務化しています。日本語学習者は非常に増えていて、その出口は日系企業への就職ですから、5年後、10年後に成果が出てくる可能性はあります。一方、課題もあります。多くのベトナム人が技能実習生や日本語学校の学生という身分で日本に行き、3~5年の間、生活、仕事をして、日本語を学んで、技術を持ち帰ってくるにもかかわらず、帰国後は給与の良いタクシー運転手になったりしています。送り出すだけで、戻ってきた時の支援がされていないことは、両国政府の課題になっています。

 

戸矢崎:インドネシアでの日系企業のイメージは、韓国企業より良いと感じます。業務は厳しいけど、とにかく法令を遵守すると思われています。

 

鉤:タイでは、日系企業に対して一定の人気はありますが、一部怖がられているところもあります。特に日本人の上司のイメージが悪いケースもあり、タイの就業文化と日本の就業文化の違いを理解せずにいると、更に離職率の上昇につながるなどの問題も起きています。

 

森村:シンガポール人の人事担当者に言われるのは、日系企業はブランディングがあまり得意でないということです。日本語を勉強している人の中には、日系企業で働いてみたいという人もいるが、長時間労働のイメージや、あまりに日本語だらけの職場環境に辟易しているようです。一方、シンガポール国立大学(NUS)や南洋理工大学(NTU)のキャンパスキャリアフェアを見ると、出ている日系企業は少ない。見せ方に圧倒的に差が出ていますね。

 

AsiaX:今後、どのような取り組みを強化していく考えですか。

 

古谷:派遣をうまく活用しながら、ベトナム国内におけるマーケティングや営業活動に繋げていき、もしうまくいくようであれば、会社を設立するという支援に力を入れています。
また、ベトナム人エンジニアの活用も考えていきたいです。日本では理工系人材の確保が難しくなっていますし、いずれタイもそういう時代が来るかもしれません。一方で、ベトナムでは理工系の人材が多くいます。しかし、ベトナム国内には彼らを吸収できるほど仕事がありません。ですから、うまく海外に送り出すことが必要だと認識しています。当社もフローをうまく構築していきたいです。

 

森村:シンガポールの強みは多文化に精通していることだと思います。地域統括拠点を管理するには、単一民族の国家より圧倒的に良いでしょう。他国に比べ政治は安定しているし、人材も豊富です。ただ、コストは非常に高いので、製造部門は、高付加価値の製造業へシフトするなどの選択が迫られてくるでしょう。働き方の柔軟性などはさらに進むと思いますから、シンガポールはもちろん周辺国の動向も踏まえながら人材サービスを提供していきたいと思います。
 また、この一年間は欧米系企業からの日本人人材に関する問い合わせが非常に増えています。日本マーケットを見る人、日本勤務ができる人、あるいはAPACから日本への進出を目指す場合の問い合わせもあります。日本語、日本人ということが何かしらキーワードになってきていると思いますので、日系の強みを生かしていきたいです。

 

座談会を終えて

シンガポールでEPの要件が厳格化された影響で、外国人がシンガポールで働くことが難しくなっていると言われています。こうした状況下、アジアでの就労を希望する日本人が、シンガポール周辺国に流れるとも考えられましたが、出席者の話を総合すると現時点で影響が出ているのはマレーシア、そしてタイのようです。両国とも一定の要件を満たした企業には外国人採用数の上限を撤廃する政策を打ち出しており、シンガポールとは対照的に両国の日本人就労者数は今後も増加していきそうです。一方で、ベトナム、インドネシアへの影響はそれほど出ていないようでしたが、ベトナムは右肩上がりの経済成長を続けており、今後人気が高まっていく可能性も感じました。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.339(2018年11月1日発行)」に掲載されたものです。(編集:竹沢 総司)

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