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座談会

2018年10月30日

東南アジア5ヵ国の人材事情

AsiaX:人材の観点から、現在の各国の状況を紹介してください。

 

鉤:タイは新興国ですが、少子高齢化は先進国並みに進んでおり、今後、20代~30代前半の人材が減少していくという見通しもあって、少し転職活動をすればいくつも内定が取れる状況と言えます。ASEANの中では、最もジョブホッピングが活発化しており、企業にとっては非常に厳しい状態ですね。特に若い方々は1~1.5年ほどで転職している方も多いというのが現状です。
 給与水準も高い上昇率で推移しています。20~30代のスタッフ層はもちろん、特にタイ人の中でマネジメントができる人材は、日本人と同等以上の破格の条件で採用されています。

 

戸矢崎:インドネシアは、人口約2億5,000万人の大国で、平均年齢は30歳ととても若いです。2030年頃まで人口ボーナス(労働力増加率が人口増加率よりも高くなることにより、経済成長が後押しされること)は続くと言われています。経済成長率の伸びに比例して就業人口も増加しています。
 人気がある業種は、依然として、商社や金融などですが、有名大学の理系新卒者の中にはサービス業で働く人も増えています。インドネシアでは、製造業の約40%は工業団地に立地していますが、工業団地ではなく、ジャカルタエリアで働きたいと考える若い人が増えてきている印象があります。
 インドネシア人の新卒給与は日本円で約4万円ですが、マネージャークラスを採用する際の給与は約10万円以上です。マネージャー層とスタッフレベルの格差が広がっていると感じます。とはいえ、大学就学率は約20%ですから、これから若い人を、マナーを含め基礎力を付けて、育てていくことが重要な時代に入ってくると思います。
 インドネシア政府は、海外企業の投資誘致を積極的に行ってきました。しかし、タイやベトナムに遅れたという評価もあり、政府には危機感があるようです。一方で、外国人が大量に入ってくると労働者擁護の点で問題が出てきます。今後は、ビザ取得を簡素化する方向がある一方で、外国人採用の際にはインドネシア人へのスキル移転を前提とした両面の政策が走っていくことになると思います。

 

古谷:ベトナムの人口は約9,400万人ですが、2025年前後には1億人を超え、2030年頃には日本と逆転すると言われています。1970年代までは戦争をしていましたが、70年~80年代にかけて復興し、90年代後半にドイモイ(刷新)という経済政策を打ち出して以降、社会主義国ですから様々な規制はあるものの、特に2000年代に入ってからは外資系企業の進出が続いています。
 ベトナムにはこれまで主要産業がありませんでしたが、いま政府はIT産業を育てる戦略を明確に打ち出していて、会社立ち上げから4年間は法人税免税、その後9年間の免税(50%)というような優遇策を行っています。また、大学のIT系の学部・学科に投資もしています。また、ダナンやニャチャンなどリゾート開発に代表されるように、観光産業を大きくしようとしています。今後は、観光産業で活躍できる例えば大学でホスピタリティーを学んだ人材にも、チャンスが出てくると見ています。

 

森村:シンガポールは高齢化の問題がクローズアップされてきています。企業から、定年後の再雇用の手続きや、再雇用の契約書の作成などの相談が非常に増えています。

 
AsiaX:日系企業の日本人の求人動向はいかがですか。

 

渡名喜:マレーシアでは、日系製造業に関しては、進出は多くなく、撤退した話も耳にします。一方、飲食店や、IT関連などのサービス業進出は続いています。今後、サービス業の責任者クラスの需要がますます高まっていくと見ています。
 また、マレーシア政府はMSCステータスという政策を推進しています。IDを取得した企業は税金面で優遇され、外国人の雇用も自由になります。このステータスに絡めて、IT関連のカスタマーセンター、コールセンターを設置する流れがあります。何十人、何百人規模の日本人を採用できるため、関連の問い合わせが増えています。

 

鉤:タイには日系企業は約6,000社進出しており、日本人の求人は絶えずあります。非製造業の企業数が製造業を上回るなど構成に変化はありますが、サービス業を中心に今後さらに日本人の採用が加速していくと見ています。タイには、現在7万人の日本人が住んでおり、毎年2、3%くらいずつ増えています。大学を卒業してすぐに海外で働きたいという人もいれば、タイで骨を埋めたいというシニアの方もいます。

 

古谷:リーマン・ショックの影響はありましたが、2007~18年にかけて毎年100社の日系企業がベトナムに進出しており、今1,800社超になりました。立ち上げには、経験者が必要となりますが、現実的に35歳前後から40代のビジネス経験者が少ないというなかで、この4、5年、企業は優秀な人材を採用できていません。そこで、大手を中心に新卒を採用して社内でトレーニングしながら底上げを図る流れも出てきています。大学と連携しながら若手人材の育成、採用に取り組む動きがあります。
 一方、日本語スピーカーの需要は高いものの、最近は、ビジネスには英語が必須ということで、日系企業も英語人材の採用に切り替えている感じもあります。

 

森村:シンガポールでも、日系企業のセールス、アドミン、秘書、カスタマーサービスなどの職種で日本語スピーカーの需要は常にあります。
 最近はM&Aが活発で、シンガポール現地法人と日本の本社が連携して取り組むことが増えている中で、シンガポール現地法人ではM&A経験がある方や経営企画出身の日本人を、世界中から集める流れもあります。あるいは、オートメーション化への対応などでも、同様に高度な人材が必要になってきています。

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