2017年4月25日
第5回 シンガポールの自動車税
シンガポールは、ほとんどの商品の輸出入に関税がかからない自由貿易港として栄えてきましたが、酒類、たばこ製品、自動車、石油製品・バイオディーゼル混合の4分野だけは輸入関税・物品税が課せられています。今回は、その中の一つの自動車にまつわる税金について見ていきましょう。
日本人がシンガポールに来て、まずびっくりするのが自動車の値段です。シンガポール政府は、交通渋滞が経済に及ぼす負の影響に着目し、先手を打って対策に取り組んできました。自動車の値段が高いのもその政策の一環で、価格を高くすることにより消費者の購入意欲を抑えようとしています。シンガポールで販売される乗用車の価格にはどのようなものが含まれているか、以下の例で見てみましょう。
上記の例では、ディーラーがS$20,000で仕入れた自動車1台につき政府が徴収する税金などの合計がS$74,221と、小売価格の73%は税金で占められており、小売価格は輸入原価の5倍以上になっています。おかげで自動車諸税およびCOEは、法人税、商品・サービス税、所得税に次ぐシンガポール政府の第四の収入源であり、先般発表された2017年度予算案では92.5億Sドル(一般会計収入の13%)の予算が計上されました。
シンガポールで登録される自動車の総数は、統制の効果により緩やかな増加を維持してきました。しかし、1999年に電子式道路課金制度(ERP)が導入されたことにより、政府は、自動車の統制に関して、それまでの所有の抑制から道路交通量の抑制に主眼を移す方針を打ち出し、混雑する時間帯の道路の課金を引き上げる一方で、OMV・物品税・ARF・道路税をそれぞれ引き下げ、同時にCOEの割当数を増やして落札価格も下げ、より多くの人が自動車を購入できるようにしました。これにより、一般家庭にも乗用車が普及するようになり、自動車の登録台数は大きく増えて2009年には90万台を突破しました。前述の例に挙げた乗用車をその当時に購入した消費者は、恐らく6万Sドル以下で買えたのではないでしょうか。その頃から、朝夕の交通渋滞が目に見えてひどくなり、そのとばっちりを最も受けたのが、車も買えず駅からも遠くバスで通勤する人々です。同じ頃に生じた住宅価格の高騰と相まって、日常生活に対する不安や不満が国民の間に広がりました。政府は、一転して自動車政策の引き締めに転じ、COEの割当数を激減させたために落札価格が高騰し、自動車は再び庶民にとって高嶺の花となりました。2015年には10年前に大量に発行されたCOEの有効期限が切れたことにより割当数も再び上昇に転じましたが、新車は今でも最低8万Sドル以上はするため、一般家庭にとっては勇気がいる買物と言えるでしょう。