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来星記念インタビュー

2016年10月17日

新しいメディアへの挑戦、両極が存在する自分のありのままを作品に

日本の現代美術を代表するアーティストのひとりとして知られる大竹伸朗さんが、STPICreative Workshop & Gallery(STPI)にて個展「Paper + Sight」を開催している(11月3日まで)。STPIは紙から作る版画工房とギャラリーを併設しており、大竹さんはアーティスト・イン・レジデンスとして招待され、過去2年で数回滞在しながら展示されているすべての作品を制作した。今年開催されている3年に1度の瀬戸内国際芸術祭への出品やギャラリーでの個展など、国内外から引っ張りだこのアート活動のほか、音楽、ファッション、出版など幅広く活動する大竹さん。そのパワフルな横顔に迫った。

 

―今回の展覧会のテーマについて教えてください。
ペーパーパルプペインティング*¹に取り組むということ以外、特にテーマもなくSTPIに来て、色を見てから何を描くか決めました。STPIならではですし、やはり大きいサイズのものをと漠然と考えていました。蛍光色が使えるということで、とにかく想像の中にあるケミカルな色の風景をできるだけシンプルに描きたいと思いました。自分はコンセプトを元に作るタイプではなく、今まで自分が経験したことのない素材などに出会って反射的に興味が持てると、同時に創作意欲が湧くんです。そこからテーマは「自然」で森とか牧場になりました。

*¹紙を漉く途中の水をたっぷり含んだパルプの段階で染色し、それを平面に置きながら描く手法。ヴァキュームテーブルで水分を抜いてから乾燥させて仕上げる。

―そのペーパーパルプペインティングの巨大な作品「Yellow Path 1」と「Pasture」に目を奪われました。

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作品「Yellow Path 1」の前に立つ大竹伸朗さん

テーマを決めると、これまでのことがいろいろ繋がって、記憶が重なるんですよね。この蛍光色は、「YellowCake (イエローケーキ)」とも呼ばれる放射性物質の六価ウランの色。2011年に福島第一原子力発電所で事故が起きた数日後、何が起こっているのか状況もよく分からないままドイツのカッセルへ、ドグメンタ(5年に1度開催される国際芸術祭)の出展作品の制作に行ったんです。それ以来、「放射能」が自分の中でずっと尾を引いていて。平和な時はもの作りとか芸術にいろいろ理屈を言ったりもするけど、いざあのような緊急事態が起きると、芸術なんかより、炊き出しや瓦礫を片付けに行くことの方がよっぽど大事なのではという疑問で一杯になった。そんな無力感に苛まれながら作品を作らなくちゃいけなくて。作品を展示するための場所を探して毎日カッセルの森の中を歩き回っては、とにかく家に帰って森で見てきた風景を描きました。目的なしに淡々と描いた森の絵、それが癒しというか平常心を取り戻すスイッチの役割を果たしてくれたんですね。「Yellow Path 1」はその森の風景がモチーフになっています。

 

もうひとつの「Pasture」、真っ黄色の牧場というのもすごいかなと思ったんです。北海道の東にある別海という、オホーツク海を見下ろしたところの情景がもとになっています。

 

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Pasture 2015 (356 x 459 cm)

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