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来星記念インタビュー

2016年10月17日

新しいメディアへの挑戦、両極が存在する自分のありのままを作品に

―STPIとのコラボレーションのきっかけと最初の印象を教えて下さい。

写真家の蜷川実花さんがSTPIのダイレクターであるエミ・ユーさんと知り合いで、2014年の横浜トリエンナーレで出会ったのがきっかけです。版画をやってみたかったし、リトグラフもシルクスクリーンも手掛けたことはあるけど、自分がスタジオで作るというのは学生以来。しかもこのサイズに取り組む、それだけでも気持ちが燃えた。工房は予想以上に立派だし、世界中探してもこの設備でこれだけのことができるところはないですね。

 

―蛍光色の作品の一方で、リトグラフの「Indigo Forest」シリーズのようにモノクロ―ムもありますね。

その辺りが自分は支離滅裂。モノクロームがありながら蛍光色も同居している。美術の世界では一貫性を持たせるために通常は作品の傾向を絞るものですが、両極を見せるのが自分流。好みとしては究極にシンプルなものが好き。茶室ですらちょっと要素が多いと思うくらい、なにもないのがいい。ぐちゃぐちゃなものを見て空っぽなものが浮かぶ、空っぽなものを見て混沌とした世界が浮かぶというか、それが理想。恐らく自分はその両極が別のものではなくて究極のところで輪になって繋がってるんですね。

 

若い頃、どっちかに絞り込めないから自分は才能がないと思っていました。30、40代になっても何も変わらないので、両極端なものが同時に存在するのが自分の個性じゃないかなと思いはじめた。両方が同時進行で存在している。理屈のために絵を描いているわけじゃないので、あるものは仕方ない。そう思いだしたら自由になりました、やってることは同じなんだけどね。

 

―「Book #1」もユニークで見応えがある作品です。

全ページがシルクスクリーンで刷られた本をつくる、STPIでしか絶対できない(笑)。本の厚みは30センチメートルくらいあって、特注の鉄枠で綴じています。混沌としたものだけど一応ストーリーはあって、STPIで作業してきた記憶の流れを汲みながら刷りあがったものを見開きで組み合わせました。

 

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Book #1/Layered Memories (106 x 85.5 x 26.5 cm, 320ページ)

シンガポールでのこの作品を手始めに、興味があるものを本という形に落としこむシリーズを作っています。今世の中がどんどんデジタル化しているからこそ逆行したいし、アナログとデジタルをミックスさせて良いところを取るなんて発想は全くない。例えばシンプルに本、しかも本なのにこの世に1冊しかない。プリントにありがちなエディションとか考えるのではなくて、どうせやるならプリントなのに1点ものを作る。一体何考えてるのって思われるようなことをやるのが重要だと思うんですよ。毎年1冊でいいからこれをシリーズにして作りたいですね。もうSTPIのスタッフは自分とやるのに懲りているかもしれないけれど(笑)。

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