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法律相談

2025年4月14日

Q.シンガポールにおける遺産相続について

Q1. シンガポール人の妻と結婚し、日本で生活をしていましたが、先日、妻が亡くなりました。シンガポールにある妻の遺産を相続するにはどうしたら良いのでしょうか。

 A. 相続の手続きについては、各国・各地域の法律に基づいて行われます。本件の場合、故人は少なくともシンガポールと日本に遺産を有しているものと考えられます。もし故人が遺言を残していた場合、シンガポールの裁判所は遺言を有効なものと認め、遺言でなされた遺言執行者の指定を承認し、その義務を遂行する権限を正式に付与します(具体的な手続きについてはこちら)。利害関係者から異議が出されない限り、裁判所は遺言の執行を認めます。遺言執行者は、シンガポールの裁判所命令が他国でも有効となるよう申立てを行うことがあります。ただし、ある国での裁判所の命令が他国でも必ずしも有効とは限らない点に注意が必要です。
 

Q2. 妻は遺言を残していませんでした。どうすれば良いでしょうか。

 A. シンガポールでは、遺言を残さずに亡くなった場合、「無遺言(intestate)」として扱われます。この場合、銀行預金等の動産については、故人の死亡時において永続的に居住する意思を有していた地(ドミサイル(Domicile))の法律が適用されることになります(ドミサイルについての説明はこちら)。本件では、故人がシンガポール国籍であることから、原則としてドミサイルはシンガポールと見なされます。
 
 なお、不動産の相続に関しては、その不動産が所在する国の法律が適用されます。すなわち、故人のシンガポールにおける不動産及び動産の相続については、シンガポールにおける法定相続規定が適用されることになります。例えば、故人に子供や親がいる場合、配偶者は遺産の50%を相続する権利を有し、子供や親等がいない場合、配偶者は遺産の100%を相続することになり、日本とは異なる割合になることが考えられます。なお、相続人は「相続放棄書」に署名すれば、割り当てられた部分の相続を放棄することが可能です。
 

Q3. 妻がシンガポールにある財産について記したメモを見つけました。これは遺言として認められるのでしょうか。

 A. シンガポールで法的に有効な遺言と認められるには、遺言者が21歳以上の証人2人以上の立会いのもとで、遺言書に署名し、証人も同様に署名する必要があります。したがって、今回見つかったメモは正式な遺言とは認められませんが、メモの内容を尊重して遺言執行の参考にすることは可能です。
 
 なお、このメモが日本の法律において遺言として認められるかどうかについては、日本の弁護士に相談することをおすすめします。仮に日本で遺言として認められる場合でも、シンガポールの裁判所では、そのまま執行することができません。シンガポールでは、日本との「相続転換(Memorandum of Resealing)」の手続きが適用されないため、新たな相続手続きが必要となります。
 

Q4. 知らない人から突然連絡があり、「妻にお金を貸したので返してほしい」と言われました。返済をする義務はあるのでしょうか。

 A. 遺産相続においては、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続の対象になります。 そのため、故人に借金があった場合には、相続人が返済義務を引き継ぐことになります。 遺言執行者は、財産を特定し、債務を清算した上で、残りの財産を遺言に従って相続人に分配します。本件では、借金の存在が明らかになっているため、返済を行わずに相続財産を分配することはできません。遺言執行者は、相続受取人の利益や相続財産の保全のため、債権者と返済条件について、交渉することが可能です。遺言執行者は、相続財産について必要に応じて法的措置を講じることができます。
 
 なお、借金を含む財産の相続を希望しない場合は、「相続放棄」という選択肢があります。相続放棄をすることで、故人が抱えていた借金を含む一切の財産を放棄することができます。ただし、借金だけを放棄することはできず、故人の所有していた不動産や預貯金等のプラスの財産も相続することができなくなる点には注意が必要です。
 

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