2025年2月3日
Q.契約前に情報提供をする際の留意点について
目次
- Q1. シンガポールでイベント運営をしている会社です。日本の会社から見積書依頼を受けることがありますが、見積書提出後、他社のほうが安いという理由でお断りの連絡があり、その際にこちらから提供した情報を他社で活用されるケースがあります。 見積書段階であっても、プロジェクトの実行計画、各社への見積依頼、交渉、会場仮押さえ、視察などに時間を費やします。見積書に対して、料金が発生しないのは致し方ないと考えますが、見積書を提出する段階で何かできる方法があれば教えてください。
- Q2. サービス料(返金不可)はどのように掲示したら良いのでしょうか。
- Q3. サービス料(返金不可)を掲示する以外に対応策はありますか。
- Q4. シンガポール法に準拠しない選択は可能ですか。
Q1. シンガポールでイベント運営をしている会社です。日本の会社から見積書依頼を受けることがありますが、見積書提出後、他社のほうが安いという理由でお断りの連絡があり、その際にこちらから提供した情報を他社で活用されるケースがあります。
見積書段階であっても、プロジェクトの実行計画、各社への見積依頼、交渉、会場仮押さえ、視察などに時間を費やします。見積書に対して、料金が発生しないのは致し方ないと考えますが、見積書を提出する段階で何かできる方法があれば教えてください。
A. シンガポールでは、法人の情報は会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority; ACRA)に登録されており、ACRAは、シンガポールにおける情報やサービスの提供を管理しています。今回のようにシンガポール国内の会場を利用し、ACRAに登録している企業として活動する場合、シンガポール法に準拠する必要があります。
まず、シンガポール法に基づいた契約が成立するため、本質的要素は以下の通りです。
(1)申込み(offer):当事者Aの申込みが必要となります。申込みは書面によるものが推奨されます。
(2)承諾(acceptance):他方の当事者Bが当事者Aの申込みを承諾します。こちらも書面による承諾が望ましいです。
(3)約因(consideration):契約として法的拘束力を有するには約因が必要です。通常、金銭が約因となります。
(4)意思(intention to create legal relationship):両当事者が契約を法的に拘束力のあるものとする意思が必要です。
(ア)コモンローにおいては、企業間の契約と親密な人間関係間での契約では意思の扱いが異なります。親しい人間関係における契約はDeed(証書)でのみ法的拘束力をもちます。
(イ)企業間の契約においては、契約の自由や交渉内容が考慮されます。
さらに、契約当事者が法定年齢に達しているか等の法律行為能力も考慮されます。これにより、契約が成立しても法的拘束力がない場合があり、それが紛争の原因となることがあります。
これらを踏まえると、イベント運営会社は、見積作成に要した時間に見合う費用をサービス料(返金不可)として、見積書提出時に見込み顧客に請求することができます。
Q2. サービス料(返金不可)はどのように掲示したら良いのでしょうか。
A. 費用の内訳を全て掲示する必要はありません。ただし、会場の仮押さえにかかる費用や請負業者への支払いが発生する場合は、その詳細を明記しても構いません。また、予約手数料やサービス料についても開示することができます。
見積書作成段階で要した時間について、シンガポールの商慣習では見積段階で請求することはあまり一般的ではないため、状況に応じて判断することが推奨されます。
なお、サービス料(返金不可)の掲示は、「申込み」に該当するため、見込み顧客が「承諾」しない選択肢もあります。そのため、掲示しただけでは必ずしも法的拘束力をもつ契約が成立するとは限りません。
Q3. サービス料(返金不可)を掲示する以外に対応策はありますか。
A. 情報提供に制約をつけることができます。具体的には、次のような条項を追加することが可能です。
●提案した内容は「特定の顧客」のみに使用を限定すること。
●情報提供企業の書面による同意がない限り、第三者への開示を禁止する条項。
●守秘義務に関する条項。
法的拘束力を有する契約の有無に関わらず、これらの条項に違反した場合、イベント運営会社は見込み顧客に対して、損害賠償を求めることができます。ただし、賠償を求めるには、少なくとも以下を立証する必要があります。
●提供した情報が他で入手できないものであること。
●違反により金銭的な損失が生じたこと。
これらを考慮して、賠償額が決定されます。
Q4. シンガポール法に準拠しない選択は可能ですか。
A. 契約書の言語が日本語で作成されている場合でも、特に記載がない限り、シンガポール法に準拠します。ただし、契約自由の原則により、当事者が合意すれば他の国の法律に準拠する選択もできます。
また、仲裁や調停、他の国での訴訟などの私的解決手段を契約書で明示することができます。