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法律相談

2022年8月23日

Q.シンガポールの銀行預金に関する相続手続①

Q. 私の父(日本国籍)は、シンガポールに約15年間居住し、シンガポールの会社で長年働いていましたが、先日他界しました。父は、生前、シンガポールのEP(就労ビザ)を有しており、あと数年で日本へ帰国して日本で余生を過ごす予定でした。
 父は、日本の法律に従い日本語で公正証書遺言を作成していました。公正証書遺言の中には、シンガポールにある銀行預金の分配についても言及がありました。法定相続人は、私の母、私、私の弟の3人で、遺言執行者は私と指定されています。私は、遺言執行者として、シンガポールにある父の銀行預金を遺言内容どおり分配したいと考えています。どのような手続を経る必要があるか教えてください。

 
A. シンガポールの銀行預金を相続する場合、シンガポールの裁判所での手続を経る必要があります。
 

シンガポールの銀行預金に関する相続手続の概要

 日本の金融機関では、公正証書遺言がある場合や、相続人全員が遺産分割について合意をしている場合には、裁判所の関与を経ることなく故人の遺産をそれぞれの相続人等に分配することができます。他方、シンガポールの金融機関では、公正証書遺言がある場合や、相続人全員が遺産分割について合意している場合であっても、シンガポールの裁判所での手続を経なければ、故人の遺産をそれぞれの相続人等に分配することができません。
 

シンガポールの銀行預金の相続に関する裁判手続の種類

 シンガポールの裁判所手続には、Grant of Probateと呼ばれる手続とGrant of Letter of Administrationと呼ばれる手続の2種類があります。
 
 遺言執行者が明記されている公正証書遺言がある場合には、原則としてGrant of Probateの手続を経ることとなります。他方、公正証書遺言に遺言執行者が明記されていない場合や、公正証書遺言自体がない場合などには、Grant of Letter of Administrationの手続を経ることになります。
 
 Grant of Probateは、遺言執行者に対し、遺言内容のとおりに故人の遺産を分配する権限を与える裁判所命令です。他方、Grant of Letter of Administrationは、遺産管理人を選任し、遺産管理人に対して遺産管理の権限を与える裁判所命令です。
 
 本件では、遺言執行者が明記されている公正証書遺言があるということですので、原則としてGrant of Probateの手続を経ることとなります。
 


 
Q. 私の父は、日本の法律に従い日本語で公正証書遺言を作成しています。このような公正証書遺言は、シンガポールの裁判所でどのように考慮されるのでしょうか。
 
A. シンガポールの裁判所での手続において、どこの国の法律が適用されるかによって判断が異なります。
 
 シンガポールの銀行預金の相続に関する裁判所手続に適用される法律は、故人のドミサイル(Domicile)がある国の法律と決められています。ドミサイルは、原則的にはその人の国籍国を指しますが、例外的に永続的な居住の意思の下、実際に居住している国があれば、その国にドミサイルが認められる場合もあります。
 
 本件では、故人がシンガポールに約15年間居住し、シンガポールの会社で長年働いていたとのことですが、そのような場合であっても、EPは期限付きで発行され、実際に故人はあと数年で日本へ帰国して日本で余生を過ごす予定であったとのことですので、シンガポールでの永続的な居住の意思は認められません。そのため、原則どおり、本件故人のドミサイルは故人の国籍国である日本となります。
 
 したがって、本件でのシンガポールの裁判所手続には、日本法が適用されることになります。そして、遺言内容や遺言執行者の指定が日本法に従っている場合には、シンガポールの裁判所が、遺言執行者に対して「日本の法律に従った日本語の公正証書遺言の内容どおり遺産を分配する権限」を付与する可能性が高いといえます。
 
 また、裁判所手続を経たことを証明する書面をシンガポールの銀行に提出することで、遺言執行者は銀行預金を公正証書遺言の内容どおりに分配することが可能となります。
 


 
Q. シンガポールの裁判所へ日本語の公正証書遺言を提出する場合、注意することはありますか。
 
A. 公正証書遺言が日本語で作成されている場合には、その英訳版を作成する必要があります。翻訳者は、一定の資格や経験を有している必要がある点に注意が必要です。加えて、日本法の弁護士が、日本法について説明した英文の意見書を準備する必要があります。
 


 
Q. 貴所に依頼した場合、私がシンガポールの裁判所まで実際に赴く必要はありますか。
 
A. 全ての訴訟手続は、シンガポール法弁護士と日本法弁護士により進めることが可能ですので、実際にシンガポールまで赴く必要はありません。
 


 
 次号では、シンガポールの銀行預金に関する相続手続において、申請者が準備すべき必要書類等について詳しく説明します。
 

日本法弁護士・シンガポール外国法弁護士 山本裕子

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