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法律相談

2022年6月20日

Q.シンガポールの弁護士報酬について

Q. 弊社は、売掛金を回収するために、シンガポールの法律事務所へ相談に行きました。案件を依頼することに決めて法律事務所との間の契約書を受け取ったのですが、弁護士報酬については弁護士のタイムチャージのレートが記載されているのみでした。特に訴訟になった場合、一体いくらくらいの弁護士報酬を支払うことになるのか予想できなくて困っています。
 日本の弁護士報酬の定め方と異なるように思いますが、このような弁護士報酬の決め方は、シンガポールでは一般的なのでしょうか。

 
A. 弁護士報酬について、タイムチャージのレートのみで合意することは、シンガポールで一般的です。
 

日本の弁護士報酬

 一般的に、日本の弁護士報酬は、事件の着手時に支払われる「着手金」と事件終結時に支払われる「報酬金」から成ります。 通常、「着手金」は、依頼者や相手方の請求金額や請求内容に基づいて計算されます。「報酬金」は、裁判や和解で認められた金額等に基づいて計算され、いわゆる成功報酬と呼ばれています。
 
 日本では、着手金は一定の金額に設定され、報酬金も経済的利益に対する割合に基づいて定められるため、弁護士報酬の金額が明瞭になりやすい傾向にあります。
 

シンガポールの弁護士報酬

 他方、シンガポールの弁護士報酬は、いわゆるタイムチャージ制が採用されています。タイムチャージ制とは、あらかじめ定められた弁護士のタイムチャージのレートと弁護士の稼働時間を乗じて弁護士報酬を計算することをいいます。通常、弁護士のレートは経験年数により定められ、経験年数が長い弁護士はレートが高くなります。もっとも、経験年数の長い弁護士は、短時間の稼働で案件を終わらせることができるため、レートの低い弁護士と比べて必ずしも最終的な弁護士報酬が高額になるとは限りません。
 
 シンガポールでは、一般的に弁護士の稼働時間に基づいて弁護士報酬を定めるため、日系企業にとっては、日本の弁護士報酬の定め方と比較して不明瞭であると思われることがあるようです。
 


 
Q. シンガポールでも、弁護士報酬を日本のような成功報酬にしてもらうことはできないのでしょうか。例えば、裁判で勝訴した場合には、裁判所が認めた金額の2割を報酬金と定めてもらうことを考えています。
 
A. シンガポールでは、弁護士報酬を「成功報酬」とすることはできません。
 
 日系企業から、シンガポールで弁護士報酬を「成功報酬」としてほしいと希望されることがあります。「敗訴した場合には弁護士費用をあまり支払いたくないが、勝訴した場合には多く支払うことは構わない」と考える方が多いようです。
 
 しかし、シンガポールでは、弁護士報酬を「成功報酬」とすることは、明確に禁止されています。その理由は、弁護士と依頼者との間で利益が相反することがあるからです。
 
 伝統的なコモンローの国では、このような「成功報酬」は民事上違法とされており、かつては刑事上の犯罪に該当する国もありました。シンガポールは、現在でも「成功報酬」を明確に禁止しています。
 


 
Q. 例えば、シンガポールの裁判で勝訴した場合には、1万Sドルを弁護士報酬とすることは可能であると聞いた気がするのですが、本当でしょうか。
 
A. 対象となる手続の場合には、弁護士報酬を「条件付報酬」とすることが可能です。
 
 このような弁護士報酬の定め方は、シンガポールでは「条件付報酬」と呼ばれ、「成功報酬」とは区別されています。「条件付報酬」は勝訴した場合に一定を報酬とする一方、「成功報酬」は勝訴した場合に一定割合を報酬とします。
 
 2022年1月12日、シンガポールでは、「条件付き報酬」が一定の条件で認められるようになりました。ただし、対象は、国内外の仲裁、シンガポール国際商事裁判所の一定の手続き及びそれに関連する調停手続に限定され、あらゆる訴訟分野に適用されるわけではありません。
 
 「条件付報酬」の最大のメリットは、訴訟の見通しが立たないケースでも、依頼者が費用について過度に心配することなく司法制度を利用できる点にあります。また、弁護士が勝訴する可能性が低いと考えるケースについては条件付報酬を高く設定することや、反対に弁護士が勝訴する可能性が高いと考えるケースについては条件付報酬を低く設定することもできるため、より柔軟に弁護士報酬を定めることができるようになりました。
 

日本法弁護士・シンガポール外国法弁護士 山本裕子

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