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法律相談

2022年10月31日

Q.シンガポールの銀行預金に関する相続手続②

Q. 私の父(日本国籍)が遺したシンガポールの銀行預金の相続について、前回に引き続き相談があります。父は、日本の法律に従い日本語で公正証書遺言を作成していましたが、その遺言書には言及されていないシンガポールの銀行預金の記録が見つかりました。このような場合、どのような手続を経る必要があるか教えてください。
 
 シンガポールの銀行預金の相続に関して、シンガポールの裁判所手続には、Grant of ProbateとGrant of Letter of Administrationと呼ばれる2種類の手続があります。
 
 Grant of Probateは、遺言執行者に対し、遺言書の指図(遺産をその特定の受益者に分配すること)を実行する権限を与える裁判所命令です。そのため、故人が遺言書で言及していない遺産がある場合には、Grant of Probate により遺言執行者に遺言書の指図を実行する権限が与えられたとしても、遺言執行者は当該遺産を分配することができません。
 
 一方、Grant of Letter of Administrationは、遺産管理人を選任し、遺産管理人に対して遺産管理の権限を与える裁判所命令です。したがって、遺言書に言及されていない遺産がある場合には、Grant of Letter of Administrationの手続を採る必要があります。そして、Grant of Letter of Administrationの手続を行う際には、相続人間で、誰が遺産管理人になるのかという点と、どのように財産を分配するのかという点を決めるように求められます。
 


 
Q. 相続人である私の母、私、弟で話し合い、私が遺産管理人となり、公正証書遺言に言及されていないシンガポールの銀行預金については私が全て相続すると決めました。手続を進めるために準備すべき書類や必要な情報等を教えてもらえますか。
 

相続放棄書と同意書

 遺産管理人にならない相続人や相続を放棄する相続人は、相続放棄書と同意書の提出が要求されます。当該書面は、在日シンガポール大使館又は日本の公証役場の面前での署名が必要となります。
 
 本件の場合、お母様及び弟様が相続放棄書と同意書を提出する必要があります。お母様が高齢の場合、裁判所から判断能力の確認を要求されることがあります。この場合、実務上、弁護士が直接面談をして判断能力を確認し、書類を作成して提出するなどの方法をとることができます。また、英語の理解力を保証するため、裁判所から通訳者が公証役場へ同行するように求められる場合もあります。
 

その他準備すべき書類及び情報

 シンガポールでの相続手続を円滑に進めるために、以下の書類や情報を予めご用意いただくようにお願いしています。これらは、シンガポール人弁護士が申請書を作成し、日本人弁護士が意見書(Affidavit)を作成する際に必要となります。ケースや裁判手続の進行によっては、他の情報や書類が求められることもあります。なお、日本語の書類は、全て英語の翻訳文が必要となります。
 
・遺産管理人の個人情報(氏名、生年月日、住所、パスポート/身分証明書番号、故人との関係を示す書類)
・遺産管理人となる資格があるが遺産管理人とならなかった方全員のパスポート/身分証明書の写し
・受益者の個人情報(氏名、生年月日、住所、パスポート/身分証明書番号、被相続人との関係を示す書類)
・故人の宗教
・故人の死亡診断書の原本
・故人の全ての遺産に関する情報(銀行名/口座番号、所有株式銘柄、借金等)及びその死亡時の評価額
・全相続人と故人の関係を示す書類(法定相続情報一覧図、婚姻証明書、出生証明書、戸籍謄本など)
・遺言書
 


 
Q. いつ頃までに、Grant of ProbateやGrant of Letter of Administrationの手続を開始する必要がありますか。
 
 故人の逝去から半年以内にシンガポールでの裁判手続を開始することが推奨されます。半年を過ぎた場合には、半年を過ぎてしまったことに対する合理的な理由を記載した書面を提出する必要があるなど、追加的な手続が必要となる場合があります。
 
 シンガポールの裁判所へ提出するための英文の意見書(Affidavit)を作成できる日本法弁護士がなかなか見つからず、手続を進めることができないというご相談もよく受けますので、当該分野に詳しい弁護士に早めに相談することが推奨されます。
 

日本法弁護士・シンガポール外国法弁護士 山本裕子

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