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法律相談

2023年1月20日

Q.シンガポールにおける知的財産法の改正について

Q. 最近、シンガポールで知的財産法の改正があったと聞きました。具体的な内容を教えてください。

 A. 2022年1月12日、知的財産(改正)法2022 (The Intellectual Property (Amendment) Act 2022) がシンガポール議会で承認され、2022年5月に施行されました。本法は、特許法、意匠法、商標法、植物品種保護法及び2014年地理的表示法の改正からなります。本改正は、ビジネス使用での利便性の向上、運用効率の改善、法令及び手続きの明確化を主な目的としています。
 
 特許法の主な改正点としては、①国際特許出願における国内移行時に英語以外の言語から英語への翻訳文公開にかかる書面の提出及び手数料の支払いが不要となったこと、②審査官が軽微な補正で拒絶理由を解消できると判断した場合、審査官は見解書を発行せずに出願人に補正を求める通知を行うことができるようになったことが挙げられます。これらの改正により、特許出願にかかる審査期間が大幅に短縮されることが期待されます。
 
 商標法の主な改正点としては、①国内の商標出願を対象とした部分登録制度の導入、②回復申請期間の短縮があります。
 
 また、本改正法の施行にあわせて、出願料等の各種手数料の値上げ、シンガポール知的財産庁(IPOS)の新たなオンラインシステム(IPOS Digital Hub)が導入されました。
 
 以下では、商標の主な改正点①及び②について具体例を挙げて説明をします。
 

1.国内の商標出願を対象とした部分登録制度の導入

 (具体例1)
 甲社は自社の商標について、指定商品及び指定役務を第X類(被服)、第Y類(宝飾品)及び第Z類(小売りサービス)として出願Aをしました。審査段階において、指定商品第X類(被服)及び第Y類(宝飾品)については拒絶理由が発見されなかったものの、第Z類(小売りサービス)については拒絶理由を有するとの通知を受け取りました。
 今回の商標法の改正により、この場合の審査手続きはどのように変わるのでしょうか。


 
 旧法下では、審査官が1つでも指定商品及び指定役務に拒絶理由を発見した場合には、全ての拒絶理由が解消されるまで当該出願が保留になっていましたが、今回の商標法改正により、多区分の国内出願において、部分的な登録が認められるようになりました。
 
 具体例1において、旧法下では、第Z類(小売りサービス)について拒絶理由を有するため、出願A全体が審査係属中となっていたのに対し、現行法下では、拒絶理由を有さない指定商品第X類(被服)及び第Y類(宝飾品)については早期の権利化が期待されます。早期権利化を望む出願人にとって、本改正によるメリットを享受できるものと考えられます。また、当該出願Aの審査結果を知りたい第三者においても、出願A全体の審査結果を待つことなく、各区分の登録可否について知ることができるようになります。
 

2.回復申請期間の短縮

 (具体例2)
 甲社は、上記とは別に商標出願Bがシンガポール知的財産庁に係属中でした。シンガポール知的財産庁への応答期限が2023年6月1日までにもかかわらず、2023年11月1日現在、甲社は、応答を失念してしまい当該期限を徒過していることに気がつきました。
 この場合、出願Bはどのようになるでしょうか。


 
 応答期限を徒過した場合、当該出願Bは取り下げられたものとみなされます。そして、旧法下では、出願人は、原則として、期限徒過後6ヵ月以内に限り出願の回復を求めることができるとされていましたが、本改正により、回復申請の期間が短縮され、期限徒過後2ヵ月以内に限り出願人は出願の回復を求めることができるようになりました。
 
 具体例2において、旧法下では、期限徒過後6ヵ月以内である2023年12月1日まで出願Bの回復を求めることができるとされていましたが、本改正では、回復申請の期間が2ヵ月に短縮され、2023年8月1日までとなります。そのため、2023年11月1日現在において、出願Bの回復を求めることが難しいことになります。
 
 本改正によって、商標登録手続きの迅速化が期待されます。また、出願人が出願の見直しをする動機付けを与えられると同時に、同一又は類似の商標の出願を検討している第三者にとっても、出願の回復期間が短縮され早期に取り下げ擬制が確定することで、自らの出願是非を判断するのに有益であると考えられます。
 
 
 以上の改正は、知的財産分野においてハブを目指すシンガポールの競争力を強化するものであると考えられます。また、企業による無形資産の利用を促進し、知的財産の登録を検討している企業にとっても手続きがより合理的かつ効率的になることが期待されます。
 

日本法弁護士・シンガポール外国法弁護士 山本裕子
日本法弁理士・シンガポール外国法弁理士 田嶋麻美

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