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法律相談

2023年2月9日

Q.シンガポールにおける企業と大学等との共同開発にかかる知的財産権

Q. シンガポールにおいて、外資系企業と大学・公的研究機関との共同開発事例は、ありますか。

 A. シンガポールにおいて、外資系企業と大学・公的研究機関との共同開発事例は多数見受けられます。例えば、現在進行中のものでは、①航空機用エンジンメーカーとシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)によるジェットエンジン製造における検査工程の自動化に関する共同開発、②石油会社とシンガポール国立大学による二酸化炭素から燃料や化学製品を製造する共同開発、③電機メーカーとシンガポール南洋理工大学による建築物の機能最適化に関する共同開発、④製薬会社とシンガポール科学技術研究庁傘下のシンガポール遺伝子研究所 、バイオ情報研究所、シンガポール国立心臓センター及びシンガポール国立大学による心臓病の新規治療法開発に関する共同開発、➄半導体メーカーとシンガポール国立スーパーコンピューティングセンター及びシンガポールヘルスサービスによるシンガポールにおける医療向上に関する共同開発等、様々な分野で行われています。
 
 新型コロナウイルス感染症の大流行を受けて、日本のスーパーコンピュータ技術を利用したシンガポール国立大学との共同開発も行われました。スーパーコンピュータで室内におけるエアロゾル等による感染リスクを評価する評価方法を開発し、室内での感染者から放出され接触者に到達するエアロゾル等の量を正確に予測することが可能になりました。また、エアロゾル等が蒸発する速度、壁への付着、人体からの放射熱由来の熱対流による動きを計測し、エアロゾル等による感染リスクを正確に予測する技術が確立され、シーリングファンをある程度早い回転速度で使用すると、室内での感染リスクを低減できる可能性が示唆されました。
 
 シンガポール知的財産庁の2020年~2021年の統計レポートによると、シンガポールの特許出願において、国内出願の出願件数が多い上位3位の出願人は、南洋理工大学、シンガポール国立大学、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)と大学・公的研究機関が独占しています。このように、出願人の所属が日本とはだいぶ異なり、シンガポールでは国の強力なサポートにより大学・公的研究機関には莫大な予算が充てられ、最先端の研究開発活動が進められています。
 

Q. 弊社はシンガポールで大学・公的研究機関との共同開発について検討しています。共同開発にかかる知的財産権は弊社が独占的に取得することが可能でしょうか。留意点も併せて教えて下さい。

 A. 別段の合意がない場合には、シンガポールの知的財産法に基づき、共同開発にかかる知的財産権は持分均等の共有とすることになります。しかし、シンガポールのほとんどの大学・公的研究機関は、研究、教育、サービスを通じて社会に貢献するという理念の下、公的資金で運営されており、大学・公的研究機関はシンガポール国全体、国際社会のために、知的財産の普及及び応用ができるように管理を行っています 。そのため、共同開発にかかる契約においては通常、大学・公的研究機関の意向が優先されることが多く、大学のみが知的財産権を独占する場合があることに留意が必要です。つまり、企業側が共同開発に関する知的財産権を取得したい場合には、その条件等を事前に交渉する必要があります。
 
 御社が独占的に知的財産権の取得を希望する場合、共同開発に関する契約をする際に、共同開発の当事者が複数いるのか、成果として得られる知的財産権の帰属について明確に規定しておくことが推奨されます。また、共同開発における知的財産権をめぐる明示的な解釈がないため、共同開発を行う企業は、現地の大学・公的研究機関と契約を締結する前に、目的とする権利内容を明確にしておく必要があります。
 
 また、共同開発に関するライセンス契約についても留意する必要があります。シンガポールでは、知的財産に関するライセンス契約のほとんどが、特定の者に実施の許諾をしており、特定の者と他の当事者とが共同開発のために知的財産を実施することを想定していません。企業がこのような知的財産を共同開発で実施したい場合には、別途共同開発で実施できるように新たな契約を締結する必要があることに留意が必要です。また、共同開発を始めるに際し、企業は共同開発に利用する第三者の知的財産のライセンス契約に関しても詳しく調べた上で、ライセンス契約の交渉や実施範囲を検討することが推奨されます。
 

日本法弁理士・シンガポール外国法弁理士 田嶋麻美

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