タイ自動車業界：EV最大手BYDが本格参入　～　高まる中国メーカーの存在感

　テスラを抜いて電気自動車（EV）世界最大手に躍り出た中国のBYDがこのほど、タイ市場への本格進出を決定した。タイ政府が補助金や減税などのEV支援策を打ち出したことを好機ととらえ、2022年内に販売店31ヵ所を開設。23年に1万台を販売し、24年からの現地生産を目指す。中国メーカーによるタイEV市場への進出に関しては、すでに大手の上海汽車と長城汽車が21年から販売を開始している他、宏瑞汽車や合衆新能源汽車などの中堅企業も相次いで進出を発表。新たにEV最大手のBYDが本格進出を決めたことによって、中国ブランドの存在感が一段とクローズアップされた格好だ。BYDによる今回の決定については、「亜州ビジネスASEAN」ニュースで詳細を確認していただきたい。
 

タイ：中国BYDが乗用車市場参入、年内に31店開設

　中国の電気自動車（EV）メーカー大手、比亜迪汽車（BYD）は８月8日、タイの乗用車市場への進出を正式発表した。まず年内に1車種を投入し、販売店を31ヵ所に設ける。中国からの輸入車で、補助金交付と減税を柱とする政府のEV振興策の適用を受ける。来年に1万台を販売する目標。右ハンドル車の輸出拠点となる工場の建設も計画している。
 
　自動車販売・部品生産のサイアム・モーターズ（SM）グループが設立した販売会社レベ・オートモーティブを販売代理店に指名した。レベが販売やアフターサービスを手掛け、ショールーム兼サービスセンターを年内に31ヵ所、来年に60〜70ヵ所に増やす方針。EV充電所は全国1,000ヵ所を目指し、EV充電所運営・充電器販売のシャージ・マネジメントと提携した。
 
　国内生産は2024年に開始する予定。工場の規模など詳細はまだ明かせないとしている。
 
　SMグループは現在、BYDと代理店契約を結び、EVのミニバンや電気バス、電動フォークリフトなどを販売している。[「亜州ビジネスASEAN」　8月8日付ニュース]
 

 
　BYDがタイ進出を本格化させる背景には、前述したようにEV普及に向けた各種支援策の導入がある。これについても、「亜州ビジネスASEAN」ニュースで内容を確認していただきたい。
 

タイ：新たなEV減税を閣議承認、利用者とメーカーを支援

　政府は７月26日の閣議で、電気自動車（EV）の普及拡大に向けた新たな減税を承認した。利用者向けの自動車税の減額と、メーカー向けの輸入関税の免除を柱に、利用と生産の両面を促進。政府が目指すEV生産の拠点化を推進する。同日付ターンセタキットなどが伝えた。
 
　自動車税は、2022年10月1日〜25年9月30日に新車登録するEVを対象に、1年間にわたって80％減額する。約12万8,000台に適用され、約1,900万バーツ（約7,100万円）の税収減になるとみている。
 
　関税免除は、電池材料などの輸入部品を使用して工業団地内の保税区（フリーゾーン）などで条件を満たして組立生産する乗用車やピックアップトラックのEVを対象とする。25年末までに約350億バーツの税収減となる見通し。国内需要に応じて税収減がさらに拡大する可能性があるものの、国内生産の促進につながると見込む。[「亜州ビジネスASEAN」　7月27日付ニュース]
 

 
　現時点で全体に占めるウェートが小さいものの、電気自動車（EV、HEV、PHEVの合計）の売れ行き自体は急ピッチで拡大中だ。2021 年の新規登録台数は前年比 37.8％増の4万8,581台に伸び、コロナ禍にもかかわらず約4割もの成長を記録。うちEVは5,781台だが、76台だった2015年と比べて約75倍もの規模に膨らんでいる。
 

 
　EVの普及に伴い、今後は中国メーカーの存在感が高まることが予想される。日系の独断場にある現在のタイ自動車市場では、中国系として「MG」ブランドの上海汽車が７位にランクインするのみだが、EVの普及にあわせて業界地図が塗り替えられる可能性が高い。日系メーカーは今後、中国製EVの攻勢に耐えられるのかーー。長年にわたり築いてきた「日本車王国」の牙城を守るため、各社にはスピード感のある対応が求められる。