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2022年10月4日

シンガポール電力業界:初の水素発電所を建設へ ~ 日系企業も相次ぎ参入

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 CO2の排出削減が世界的な課題になる中、東南アジアで初となる水素対応の発電所を稼働させるプロジェクトがシンガポールで始動した。新発電所の建設は、三菱重工とIHIが共同で受注。西部ジュロン島を予定地とし、2026年の完工を目指す。シンガポール政府は21年2月に発表した環境行動計画「シンガポール・グリーンプラン2030」の中で、環境に優しいエネルギー源の確保に向けて、水素エネルギーの導入方針を打ち出している。同国の水素エネルギー供給計画は、今回のプロジェクトが示すように日本企業が支援していく流れ。21年10月には、三菱商事と千代田加工が水素供給網の実現に向けて、政府系セムコープ・インダストリーズと戦略提携を交わしている。日系企業が参入するプロジェクト2件については、その概要を以下の「亜州ビジネスASEAN」ニュース2本でご確認いただきたい。
 

(1)シンガポール:三菱重工とIHI、水素発電所の建設受注

 三菱重工業は8月31日、IHIの傘下企業とコンソーシアム(共同事業体)を組み、西部ジュロン島で計画される水素発電所のEPC(設計・調達・建設)を受注したと発表した。出力は600メガワット(MW)。2026年上半期の完成予定で、シンガポールで初の水素発電所となる。
 
 シンガポール政府系のエネルギー会社、ケッペル・インフラストラクチャー・ホールディングスから受注した。発電所は30%の水素を含む燃料で運転できるように設計され、水素での専焼発電にも対応できる機能を備える。三菱重工はガスタービンの長期保守業務も受注した。
 
 三菱重工はさらに、ケッペル・インフラの子会社との間で、シンガポールでアンモニア専焼発電所開発の事業化調査(FS)を実施する覚書(MOU)も締結した。[「亜州ビジネスASEAN」 9月1日付ニュース]
 

(2)シンガポール:三菱商事と千代田化工、水素供給網でセムコープと覚書

三菱商事と千代田化工建設は4日、千代田化工の水素貯蔵・輸送技術(スペラ水素)を活用したシンガポールにおける商業規模でのクリーン水素サプライチェーン事業の調査と実現に向けて、政府系セムコープ・インダストリーズとの3社間で戦略的提携の覚書を締結したと発表した。
 
 シンガポール政府は2020年に長期低排出発展戦略を発表し、2050年までに同国の二酸化炭素(CO2)排出量を30年の半分(年間3300万トン)に削減し、21世紀後半のできるだけ早い時期にCO2排出量の実質ゼロ達成を目標に掲げている。水素と低炭素技術の導入は重要な取り組みの一つと位置付けられており、三菱商事と千代田化工建設はスペラ水素技術の活用による貢献を目指している。
 
 今回の覚書を通じて、セムコープの発電施設での天然ガスとの水素混焼を通じた脱炭素施策を視野に、シンガポール国外でカーボンフリーの水素を調達し、国内に供給するサプライチェーンの構築を目指す。展開に当たって、セムコープのエネルギー分野のノウハウに加えて、千代田化工の水素貯蔵・輸送技術、三菱商事のグルーバルネットワークの強みを融合させる。
 
 スペラ水素は、水素と化学物質のトルエンを結合させて常温常圧で輸送できる特徴を持つ、千代田化工の独自開発技術。化学的に安定しているため取り扱いが容易で、既存の石油・石化製品の規格やインフラを活用することが可能だ。[「亜州ビジネスASEAN」 21年10月6日付ニュース]
 


 
 CO2削減について、シンガポールのエネルギー2050委員会は22年3月、「電力部門が50年までに、実質ゼロ排出の達成を現実目標として目指すことができる」と長期シナリオを描いた。とはいえ、現状はそれに程遠いといえる。2020年末時点の電源構成をみれば、CO2の排出が少ないクリーンエネルギーに位置付けられる天然ガスが95.8%を占めているが、CO2をまったく排出しない再生可能エネルギーは2.8%にとどまる状態。10年前の2010年から、再生可能エネルギーの比率はほとんど上昇していない。それだけに今後は、水素発電をはじめとするよりクリーンな電源のウェートが急上昇していくはずだ。
 

 
 なお日系の主要エネルギー企業は、東南アジアの周辺国でもエネルギーの水素転換を積極支援している。例えばマレーシアでは、ENEOS(エネオス)が水素サプイラーチェーンの構築で国営石油ペトロナスに協力したほか、JERAも脱炭素に関する協業でペトロナスと覚書を交わした。またインドネシアでは、三菱商事がグリーン水素の供給網構築で国営石油プルタミナなどに協力。さらにタイでも、JERAが発電大手EGCOに対するエネルギー転換事業の支援で合意している。
 
 日系各社による一連の支援は、日本の水素発電を強化することが最終的な目的だ。2030年をめどに水素発電所の商用化に漕ぎ着け、原発1基分に当たる100万キロワット(kW)程度の発電を目標に据えている。ACILアレン・アナリシスの予測によると、日本の水素需要は30年に世界全体の5分の1を占める規模に膨らむという。  
 
 これを見据えて日本側は、東南アジアを水素の重要供給先として育成したい考えだ。「エネルギー安保」のためにも、計画が着実に進行していくことに期待したい。
 

亜州リサーチASEAN編集部
亜州ビジネスASEAN

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