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2022年2月8日

Q.シンガポールにおける商標について③ 〜パリ条約に基づく優先権の主張を伴う出願・マドリッド協定議定書を利用した国際出願について〜

Q. 弊社(A社)は、2021年7月に、A社の社名を商標、主力商品である食品を指定商品として、シンガポールで商標の出願を行いました。その後、販売戦略が功を奏し売上が伸びてきたので、タイにおいても登録商標であるA社の社名をパッケージに付した食品の販売を始めたところ、B社から「A社の商品は、B社の商標権を侵害している」との警告を受けてしまいました。調べたところ、B社は、2021年11月に、タイにおいて食品を指定商品としてA社と類似の商標を出願していたことが判明しました。B社からの警告に対し、弊社はどのような対応が考えられるでしょうか。
 
 パリ条約に基づく優先権の主張を伴う出願をすることが考えられます。
 
 パリ条約とは、工業所有権の保護に関する国際条約の1つであり、正式名称は、「工業所有権の保護に関するパリ条約」といいます。
 
 パリ条約に基づく優先権の主張を伴う出願は、条約加盟国の1ヵ国に商標を出願すれば、出願日から6ヵ月間は、他の加盟国に対して「優先権」を有するというものです。すなわち、適法に優先権を主張することができれば、第2国目以降の出願(タイでの出願)が、第1国目の出願日(シンガポールでの出願日)に出願されたものとして扱われ、第1国目の出願から第2国目の出願までの間になされた行為により不利な取扱いを受けず、第三者のいかなる権利等をも生じさせないとされています。
 
 本事例において、例えば、貴社(A社)が2021年12月にタイで出願をする場合、シンガポールでの出願日である2021年7月から6ヵ月以内なので、タイでパリ条約に基づく優先権の主張を伴う出願をすることができます。パリ条約に基づく優先権の主張が認められれば、A社は、B社の商標出願について、不利な取扱いを受けなくて済む可能性があります。他方、2022年2月にタイで出願をする場合、シンガポールでの出願日から6ヵ月が経過しているため、パリ条約に基づく優先権の主張をすることはできなくなります。
 


 
Q. 弊社(A社)は、今後、ベトナム、インドネシア、フィリピンにおいても事業展開を考えています。これらの国で、早期に商標登録をしたいと考えています。どのような方法がありますか。
 
 マドリッド協定議定書を利用した国際出願をし、複数国に一括して出願手続きを行うことで、早期の出願が可能となります。
 
 マドリッド協定議定書とは、商標の国際登録制度に関する条約であり、正式名称は、「標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書」といいます。
 
 外国で商標の保護を受けるためには、原則として、保護を求める国においても商標登録出願を行い、商標登録することが必要です(第1回の記事を参照ください)。他方、マドリッド協定議定書を利用した国際出願は、締約国の一国(本国)に登録又は出願されている商標を基礎に、保護を求める締約国を指定して世界知的所有権機関(WIPO)の国際事務局が管理する国際登録簿に国際登録を受けることにより、指定締約国において出願するのと同等の効果が得られます。
 

 
 現在、日本やシンガポールを含む約100ヵ国がマドリッド協定議定書に加盟しており、ASEAN諸国においてもミャンマー以外は全ての国が加入国となっています。
 
 本事例において、シンガポールで出願した商標を基礎に、ベトナム、インドネシア、フィリピンを指定して、マドリッド協定議定書を利用した国際出願をすることができます。
 


 
Q. マドリッド協定議定書を利用した国際出願のメリットと留意点を詳しく教えてください。
 
 マドリッド協定議定書を利用した国際出願の主なメリットは、次のとおりです。
 
 1.手続の簡素化:複数国で権利を取得したい場合、本国官庁に1通の出願書類を提出することにより、複数国に同日に出願した場合と同等の権利を有します。また複数国分の出願手数料も、国際事務局に一括して支払うことで完了します。そのため、出願にかける時間を比較的短くすることができます。
 
 2.容易な書類作成:言語が異なる国に対しても出願等の手続き書類は英語、フランス語又はスペイン語で行います。各国言語への翻訳が必要ないため、国ごとの指定商品、指定役務の把握が容易になります。
 
 3.権利管理の一元化:国際事務局における国際登録簿により権利関係が一元管理されるので、同事務局へ所定の手続きを行うことにより、各指定国への手続きを省略できます。
 
 4.経費の削減:各国別に直接出願する場合は、各国が求める所定の出願書類の作成が必要なため、各国の代理人費用や翻訳費用等が必要になります。一方、マドリッド協定議定書を利用した国際出願は、各国言語への翻訳は不要であり、拒絶理由が発見されずに登録になる場合は、各国の代理人の選任は不要なため、代理人費用は発生しません。ただし、指定国で拒絶理由が発見され、その国で拒絶理由への応答等を行う場合、その国の代理人の選任が必要となり、費用が発生します。
 
 5.締約国の事後指定:出願時に指定しなかった締約国、出願後に新たに加盟した締約国についても事後指定の手続きにより領域指定ができます。また、国際登録出願時に特定の国に対し商品・役務を限定的に指定した場合でも、国際登録の範囲内であれば、指定しなかった商品・役務を事後指定により追加することができます。
 
 留意点としては、国際登録出願をしようとする商標において、本国における出願と名義人が同一、標章が同一、基礎登録の指定商品等の範囲が同一又はその範囲内でなければ利用できない点が挙げられます。
 

日本法弁護士・シンガポール外国法弁護士 山本裕子
日本法弁理士・シンガポール外国法弁理士 田嶋麻美

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