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2021年3月10日

タイ:斜陽の百貨店業界、東急撤退で日系は高島屋の1店舗のみに

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 百貨店業界が世界的に低迷する中、タイでも東急百貨店が35年の歴史に幕を閉じ、その店舗に量販店「ドンドンドンキ」が入居するという象徴的な出来事(主役交代)が起こった。これにより、現地の日系デパートは高島屋の1店舗だけとなる。一連の動きについては、次の亜州ビジネスASEANニュースをご参照いただきたい。
 

タイ:東急撤退後にドンキなど出店=MBKセンター

 バンコク都心のショッピングセンター(以下、SC)「MBKセンター」を運営する不動産開発のMBKは、同SCから中核店舗の東急百貨店が撤退した後のフロアに、ディスカウントストア「ドンドンドンキ」などが入居すると発表した。MBKはタイ人の集客強化に向け、1985年の開業以来で最大の改装を行う。1日付クルンテープ・トゥラキットなどが伝えた。
 
 東急百貨店は先月末で閉店し、1985年の開業から35年の歴史に幕を閉じた。MBKによると、東急が入居していた1〜4階の1万2000平方メートルのうち、2階部分の3000平方メートルには「ドンドンドンキ」の出店が決まっている。ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の東南アジア仕様で、24時間営業が予定されているという。
 
 他のフロアでは、MBKと消費財大手サハ・グループの提携による新業態の店舗が1階に出店。3階についてはテナント候補と交渉中で、4階は情報技術(IT)製品の販売フロアとし、第3四半期にもオープンする。
 
 MBKは同SC全体を2022年までに改装する計画。新型コロナウイルス流行の影響で外国人観光客の集客が見込めないことから、飲食フロアの拡張などによってタイ人客の呼び込みを強化する。約10億バーツ(約35億円)を投じる。
 
 東急百貨店は先月31日で最後の営業を終えた。近隣商業施設との競争激化などで近年は販売が苦戦。バンコクでは昨年8月に伊勢丹が閉店しており、日系百貨店は2018年にオープンした高島屋のみとなった。[亜州ビジネスASEAN 2021年2月1日付ニュース]
 


 
 ネット通販や量販店に押され、百貨店の経営環境が悪化する状況はタイも例外ではない。現地2大百貨店(セントラルグループとザ・モールグループ)の売上推移を見れば、長らく低成長を続けた後、2018年をピークに2019年はマイナス成長に転じた(下図)。
 

 
  コロナ禍に見舞われた2020年も、当然ながら回復を見込むべくもない。スーパー・百貨店の合計売上高は、3~9月の期間に7カ月連続のマイナス成長。1~9月の累計では、前年同期比で5.4%の減少を強いられた(好調なスーパーを合わせている点を踏まえれば、百貨店だけではさらなるマイナス成長が予想される)。
 

シンガポールでも「デパート衰退・量販チェーン勃興」の流れ

 撤退した東急百貨店にドンドンドンキが取って代わるというタイで見られた象徴的な動きは、同じアセアン域内のシンガポールでも表面化している。老舗百貨店のロビンソンズは2020年10月、業績悪化を理由に廃業を決定した。それを横目に家電量販チェーン大手のノジマが2021年1月、中心部のオーチャード・ロードに大規模商業施設を開設すると発表したのだ。以下、これをまとめた亜州ビジネスASEANニュースを2本転載する。
 

シンガポール:老舗百貨店ロビンソンズが廃業へ、6期連続赤字

 シンガポールの老舗百貨店であるロビンソンズは10月30日、既存の2店を閉鎖し、廃業すると発表した。電子商取引(EU)の普及で業績が落ち込み、2014年から6期連続で赤字を計上。店舗数を減らして再起を図っていたところを新型コロナウイルス禍が直撃し、廃業を決めた。マレーシアで2店舗を運営する同国の現地法人も清算する。ストレーツタイムズなどが伝えた。
 
 同社は声明で、百貨店事業そのものが時代遅れになっていると説明。オンラインに需要を奪われる中、長期的な事業継続は困難とみて、親会社であるドバイのアルフタイム・グループが解散を決めた。閉店セールを実施後、162年続いた看板を下ろす。
 
 ロビンソンズは英国植民地時代の1858年に豪州からの移民だったジョン・スパイサー氏と刑務官だったフィリップ・ロビンソンズ氏の2人が立ち上げた。1928年にはマレーシアのクアラルンプールに店舗を開業し、1989年にはシンガポール取引所に上場。2006年に大株主だったOCBC銀行がインドネシアの財閥リッポー・グループに売却後、アルフタイムが買収していた。[亜州ビジネスASEAN 2020年11月2日付ニュース]
 

シンガポール:ノジマ傘下のコーツ、中心部に商業施設

 家電量販大手のノジマは14日、子会社のコーツ・シンガポールが、シンガポール中心部のオーチャード・ロードに大規模な商業施設を開設すると発表した。来年春の開業を予定。ノジマが海外に自社運営の商業施設を設けるのは初めてとなる。
 
 商業施設「ザ・ヒーレン」の地下1〜地上5階をコーツが一括して借り受け、自社旗艦店の出店とテナントの誘致を行う。面積は1万7600平方メートル。同施設には、昨年末に廃業を決めた老舗百貨店「ロビンソンズ」が入居していた。
 
 ノジマは新規事業への着手に関して、「世界的なパンデミック下においても、『変化をチャンスに』と捉え、成長著しい東南アジアでのビジネス展開を加速する」と表明した。
 
 コーツは現在、14店舗を運営している。ノジマは2019年初めに買収した。[亜州ビジネスASEAN 2021年1月17日付ニュース]
 


 
 アセアン域内に限定される話ではないが、小売業界では高級アパレルに偏った百貨店よりも、廉価で日用品や食品を豊富に取り揃える量販店のニーズが高まっている。特に、若者を中心とした消費層にその傾向が強い。ネット通販の拡大もあり、百貨店の受難は今後さらに顕在化しそうだ。
 

亜州リサーチASEAN編集部
亜州ビジネスASEAN

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