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危うし!日系企業の常識・非常識

2021年1月13日

ビジョンを描く4つのアプローチと、良いビジョン・良くないビジョンの見極め方

 2021年が始まりました。昨年2020年は、新型コロナウイルスで世の中が大きく変化した年であり、これまでの常識が通用しない年でした。まさに、VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity and Ambiguity)の時代、つまり変動し、不確実で複雑、かつ曖昧な時代を実感させられた年でもありました。
 
 新型コロナのワクチンがいち早く開発され、ニューノーマルの時代の中で、2021年となる今年は、会社をコロナ禍以降にどのような方向に進めていくのか、新たなビジョンを構築することが求められる年ではないかと思います。
 
 そこで今回は、ビジョンの描き方について説明しようと思います。
 

絶対的正解がないビジョン。対話で作り上げ当事者意識を醸成する

 「ビジョンとは、意志」であり、ビジョンには「絶対的な正解と言うものはなく、意志を持って定めていくものである」ということを先ず理解する必要があります。
 
 また、完璧で普遍的なビジョンを作り込むというのは、変動性が高く複雑な時代には現実的ではない場合が多く、常にビジョンを考えつつ、状況を見据えて、修正やアップデートをしていくものだと考える方が、現実的ではないかと思います。
 
 ビジョンは「トップマネジメントが完璧なものを出す」という考え方も、今のご時世では難しくなってきていると感じます。トップマネジメントから見えている世界観、ミドルマネジメントから見えている世界観、社外の人から見えている景色はそれぞれ異なります。だからこそ、さまざまなステークホルダーと対話を重ねながら、徐々にビジョンを形作っていくこと。そして、そのプロセスを通じて、多くのステークホルダーを巻き込み、その方々にもビジョン構築に携わってもらうことで、ビジョンに対する思い入れや当事者意識を持ってもらうというアプローチが今の時代には合っているかと思います。
 
 もちろん、大きな道筋は、トップマネジメントが掲げる必要があるケースも多いと思います。ですが、細かなところまで詳細に詰めることをトップマネジメントの役割としてしまうと、それだけで検討に時間がかかってしまいますし、従業員側は完璧なビジョンを求めて粗探しをしてしまう思考になってしまいます。従業員と共にビジョンを詰めていく作業を経ることで、みんなで作ったビジョンとなって意識にも浸透し、より実行に向けてパワフルに推進されることが期待できます。
 

ビジョン構築の4つのアプローチ

 一般的に、ビジョンを構築するのは主に下記の4つのアプローチがあります。

1.現状改善アプローチ

 今の問題を見つけ出し、それを改善していく未来を描くアプローチです。今の問題が何かを洗い出し、その中で優先順位をつけて問題解決された状態をビジョンとして掲げ、PDCAを回しながら改善していくアプローチになります。

 

2.戦略アプローチ

 目的・目標を設定し、その目的・目標をどうやったら達成できるのか?ビジネス上、どうしたら競合に勝つことができるか?を軸足として考えて、勝てる市場を選択。さらに、戦い方を決めて資源を最適配分した理想の姿から落とし込んでいくアプローチです。
 

3.ユーザー起点クリエイティブアプローチ

 1の現状改善アプローチが、比較的これまでの延長線上のやり方で改善していくことであるのに対して、ユーザー起点クリエイティブアプローチは、顧客やユーザーの立場・視点になって進めていくアプローチです。彼らが本当に悩んでいること、困っていることに対して、これまでとは異なる創造的な解決法を考えます。このアプローチでは、イノベーションを生み出すプロセスでもある「デザイン思考」を活用していきます。
 

4.ムーンショットアプローチ

 こちらのアプローチは、こうなったらいいなという願望ややりたいこと、野心などからビジョンを設定していくものになります。「こんな世の中になったら」という想いや「この会社をこういう会社にしたいんだ!」という強い想いから、逆算して考えていくアプローチです。現状がどうかというよりは、こうありたい・こうしたいという想いが軸になりますので、かなりストレッチなビジョンが設定されることが多くあります。、「月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させる」というくらいに、人々を魅了する野心的な目標などのことで、ムーンショットと呼ばれるゆえんです。一般的な10%成長レベルなどではなく、10倍以上の成長レベルのビジョンを描くケースが多くあります。

 
 現実的には、上記の4つのアプローチを組み合わせて、最終的なビジョンが構築されていくことが多いと思いますが、ぜひみなさんのビジョンを考える参考にしていただけたらと思います。
 

良いビジョン、良くないビジョンの見極め方

 ビジョンが出来上がった時に、そのビジョンが良いビジョンなのか、それともあまり良くないビジョンなのかはどうやって判断すればいいのでしょうか?
 
 私は、良いビジョンというのは「今の行動や優先順位が変わるもの」と定義しています。逆に言うと、ビジョンを作ったとしても、今の行動やモチベーション、優先順位に何らインパクトを及ぼさないビジョンは、絵に描いた餅で額に飾っているだけのお飾りビジョンでしょう。
 
 時間で考えると、我々は常に「今」を生きています。「今」の連続が過去であり、未来です。未来を変えるには、「今」を変えることが重要です。その「今」の行動や優先順位を変えることが、ビジョンの役割です。
 
 みなさんが掲げているビジョンは、みなさん自身や部下の方々の「今」の行動や優先順位に変化を誘発する、ワクワクするものになっているでしょうか?
 
 新しい年が始まった今、改めてビジョンを見つめ直し、再構築してみてはいかがでしょうか?
 


森田 英一(もりた えいいち)
beyond global グループ President & CEO

 
大阪大学大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて人・組織のコンサルティングに従事。その後シェイク社、beyond global社を創業。日系企業のグローバル化支援事業を手掛ける。社員の主体性やリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発ファシリテーションに定評がある。日本全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。主な著作「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「会社を変える組織開発」(PHP新書)など。日経スペシャル「ガイアの夜明け」「とくダネ!」などメディア出演多数。シンガポール在住。シンガポール在住。
人と組織の可能性を拓く beyond global グループ(シンガポール・タイ・日本)
グローバルリーダーシップ研究所
Email: info@beyond-g.com

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