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危うし!日系企業の常識・非常識

2020年12月14日

海外現地法人によくある「組織硬直化現象」にどう対応すればいいのか?

 海外現地法人の方々からのお悩みとしてよく聞くのが、下記のようなことです。
 
 「現地スタッフの中で、勤務歴の長いスタッフがいる一方で、若くて優秀な社員は辞めていってしまう」
 
 10年から20年間その会社で働いている古株社員が上のポジションを占めていて、若くて優秀な社員がキャリアアップするポジションがなかったり、場合によっては、新しいことを始めようとする若くて優秀な社員を、保守的な意識になってしまっている古株社員がいじめたりするという構造に陥っているケースで聞きます。
 
 これは、ポストが固定化し、組織として硬直化してしまっている日系現地法人によくある例です。駐在員は3〜5年程度で入れ替わることが多いため、長年働き、過去の出来事を詳しく知っている古株社員は駐在員から重宝されます。また、その人がいるから仕事が回っているという構造になっていることも多く、駐在員から見ると、その人の存在が安心につながります。
 
 ただ一方で、古株社員は保守的になっていたり、保身に入っているケースも多く見られ、後進の育成や他の社員への情報共有については、あまり積極的ではないという話をよく聞きます。人は一般的に、同じ仕事をずっとやって年齢を重ねると、保守的になったり、モチベーションが下がるものです(もちろん例外はあります)。
 
 もし、組織が硬直化することで、社員のモチベーションが下がっていたり、保守的になっていたり、やる気のある社員が辞めてしまったり、という現象が出てきているのであれば、ある一定レベルの「健全な新陳代謝」を作り出すことが長い目で見ると重要であったりします。
 
 この硬直化はなぜ起こるのかというと、
 ・評価がうまく機能していない
 ・駐在員の短期志向
 これらの2つの要素が相まっていることが多くあります。
 
 評価制度が適切に機能しているのであれば、成果は出していたとしても、「周りの人のモチベーションを下げている」など、組織に悪影響を及ぼしているようなことがあれば、マイナス評価をして本人に改善を求めるなどのアクションをとるべきです。
 
 ただ駐在員は、任期があるという構造性質上、自分の任期の間にあまりリスクのあることをしたくないという思考に陥る傾向にあり、メンバーのモチベーションを下げたりしている事象を見たとしても、ビジネスとしてある程度回っているのであれば、その状態を見て見ぬフリをして、やり過ごしてしまうという傾向があります。また、日本人自体が、厳しい評価を付けて、フィードバックをすることに慣れていないというのもあります。
 
 そうして、脈々とこの構造は受け継がれ、10年、20年とその悪循環は代々の駐在員に見て見ぬフリをされ続け、さらにジワジワと組織の主体性ややる気を削いでいくという負の連鎖を産んでいきます。
 
 このような構造から脱出するには、まず評価制度をきちんと機能させ、年功序列的評価ではなく、日本でも話題になっている「ジョブ型雇用」として、そのポストに本来担ってもらうべき役割や、必要な能力、期待行動を明確にし、公平に評価をして、その結果を本人にきちんとフィードバックすることが重要になります。場合によっては、降格や減給を行うことも必要かもしれません。
 
 また、プレーヤーとしては優秀だが、マネジャーとして人をマネジメントするのが苦手な人をマネジャーという役割に付けてしまっているケースもあります。このような場合は、マネジメントコースの他に、スペシャリストコースのようなキャリアコースを新設して、そちらのコースに移ってもらうという手も考えられます。
 
 さらにそれと並行して、タレントレビューを適切に行い、年齢や経験年数を問わず、ポテンシャルがあって結果を出している人材を思い切って抜擢していくことも効果的です。組織の中に新しい風が吹くでしょう。ただし抜擢人事は、本人にとってもかなりストレッチ(張り詰めた状況)で、かつ、周りからのプレッシャーも大きいので、サポート体制をきちんと作っておくことも大事なことです。
 
 もしあなたが、組織が硬直化していることで優秀な若手のモチベーションを下げていたり、主体性を奪っている現象が起きていることを認識したら、負の連鎖の片棒を担ぐのではなく、そのことによって失われいるこれまでとこれからのローカル社員のやる気と、ローカル主体の新たなビジネス拡大があるかもしれないという視点に立ち、勇気を持って、負の連鎖を止めるアクションに踏み出していただきたいと思います。
 


森田 英一(もりた えいいち)
beyond global グループ President & CEO

 
大阪大学大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて人・組織のコンサルティングに従事。その後シェイク社、beyond global社を創業。日系企業のグローバル化支援事業を手掛ける。社員の主体性やリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発ファシリテーションに定評がある。日本全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。主な著作「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「会社を変える組織開発」(PHP新書)など。日経スペシャル「ガイアの夜明け」「とくダネ!」などメディア出演多数。シンガポール在住。シンガポール在住。
人と組織の可能性を拓く beyond global グループ(シンガポール・タイ・日本)
グローバルリーダーシップ研究所
Email: info@beyond-g.com

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