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会計・税務相談

2020年11月19日

Q.シンガポールの雇用促進インセンティブについて

Q. 2020年9月に、シンガポールで新しく導入された雇用促進インセンティブ(Job Growth Incentive)について教えてください。

 シンガポールの失業率は、過去10年以上にわたり概ね2%台前半を維持して安定していましたが、2020年第3四半期は新型コロナウイルス感染症の影響などにより3.6%と急激に上昇しました。Job Growth Incentive(JGI)は、昨今の経済的逆風の中においても着実に業績を伸ばし労働力が不足する企業に対して、積極的な雇用の拡大を奨励し、新たな雇用の受け皿を創出しようとする制度です。JGIは、2020年8月17日に追加経済支援策の一環としてヘン・スイキャット副首相兼財務大臣により発表され、10億Sドルの予算が計上されました。
 

Q. 具体的にはどのような制度でしょうか。

 JGIは、2020年9月から2021年2月までの6ヵ月間にシンガポール国籍または永住権を有する従業員(ローカル従業員)を長期雇用を目的として新規採用し、かつ所定の要件を満たす場合、新規採用したローカル従業員の月額総賃金のうち5,000Sドルを限度として25%または50%を雇用開始から最大12ヵ月間にわたり政府が助成金として支給するという制度です。受給要件は下記の2つで、両方とも満たさなければなりません。
 
 ①各月のローカル従業員の総人数が2020年8月の総人数より増えていること
 ②各月の月額総賃金1,400Sドル以上のローカル従業員の人数が2020年8月の人数より増えていること
 
 すなわち、助成金を受給するには、2020年8月に在籍したローカル従業員の雇用を維持しながら新たにローカル従業員を採用し、会社全体としてローカル従業員数の雇用を増やさなければなりません。また、要件は各月毎に満たす必要があり、要件を満たせなかった月には助成金は支給されません。
 

Q. 受給率は従業員によってどのように異なりますか。

 受給率は、新規採用したローカル従業員の年齢などによって以下のように異なります。
 
 ・40歳未満の健常者:25%(最大12ヵ月間で1人につき15,000Sドル)
 ・40歳以上の健常者:50%(最大12ヵ月間で1人につき30,000Sドル)
 ・障がい者(年齢を問わず):50%(最大12ヵ月間で1人につき30,000Sドル)
 

Q. 2020年8月に在籍したローカル従業員(既存ローカル従業員)が退職した場合、どうなりますか。

 例えば、月額総賃金1,400Sドル以上の既存ローカル従業員が1人退職した場合、同じく月額総賃金1,400Sドル以上の新しいローカル従業員を2人以上採用しないと、上記の要件を2つとも満たすことができず、助成金を受給できません。また、JGIは、既存ローカル従業員の雇用を維持しつつ新たな雇用機会を創出することを目的としているため、既存ローカル従業員が退職した場合、各月における既存ローカル従業員のうちの退職者の比率または5%のいずれか高い方の比率を助成金から減額するとしています。例えば、2020年8月に10名いたローカル従業員のうち1名が退職した場合、その後の各月の助成金は10%減額されることになります。
 

Q. JGIの適用を受けるには申請が必要ですか。また、助成金はいつ頃支給されますか。

 申請は必要ありません。適用の可否および助成金の金額は、毎月の中央積立基金(CPF)への拠出データに基づき自動的に計算され、2021年3月から3ヵ月ごとに内国歳入庁(IRAS)から支給されます。
 

 対象期間   支給時期 
 2020年9月~2020年11月   2021年3月 
 2020年12月~2021年2月   2021年6月 
 2021年3月~2021年5月   2021年9月 
 2021年6月~2021年8月   2021年12月 
 2021年9月~2021年11月   2022年3月 
 2021年12月~2022年1月   2022年5月 

 
 ただし、状況について不審な点があった場合などにはIRASによる調査があり、その調査の結果をもって受給の可否が判断されます。本制度の悪用に対しては厳しい処分が課せられ、10年以下の禁固刑および罰金刑の対象となります。
 

著:Tricor Singapore Pte Ltd 斯波澄子
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