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危うし!日系企業の常識・非常識

2020年10月11日

受け身組織からハイエンゲージメント組織への転換プロセス

 「社員が受け身だ」という際には、原因が社員にあるケースもあれば、会社が作り出している構造が原因のケースもあることを前回の記事で指摘しました。今回は、受け身社員が多く存在する「受け身組織」で、「ハイエンゲージメント組織への転換ができるのか?」について解説します。
 

組織の方向性を言語化する

 受け身社員が多い組織を、エンゲージメントが高い主体的な組織文化に転換するには、多面的なアプローチが必要です。
 
 まず経営陣が、どのような組織文化を作っていくのかという意思と方向性を言語化して明確にすることが重要になります。受け身社員が多い会社は大概、心理的安全性が低く、本音で話すことができないというソフト面と、人事評価・報酬制度がうまく機能していないという仕組み・ハード面の両面に問題があるケースがほとんどです。
 

 

社員の本音を聞き出す

 まずは、ローカル社員の本音を聞き出すことが最初のステップになります。本音を聞き出すためには、従業員意識調査(エンゲージメントサーベイ、企業文化分析、組織課題分析などを含む)を実施するのがいいでしょう。
 
 ただ、このような意識調査を実施する前には、
 ・匿名で行うこと、人事評価などには影響を受けないこと
 ・現状を正しく理解したいので、遠慮したりせずに、本音で書いて欲しいこと
 ・この結果をもとに、会社をより良くしていきたいと経営陣が思っていること  
 などを、きちんと経営陣の口から、社員に説明することが重要です。
 
 インタビューを実施することが多いのですが、クライアント企業に10年以上勤めたローカル社員が、「こんなに話を聴いてもらったことはなかった!」と、涙しながら語ることは、珍しくありません。そのような場面に遭遇する度に、ローカル社員の声をしっかりと受け止める風土と仕組みがなかったのだと、認識させられます。
 
 その意識調査の結果によって、現在、「社内で起きていること」「ローカル社員のエンゲージメントレベル」「会社の中での問題点」「現在の企業文化」と、「社員が考える理想の企業文化」などを、経営陣が正しく把握することができます。また、経営陣で話し合い、どのような組織にしていきたいのかという組織ビジョン、理想の企業文化や、HRポリシーなどを明確にしていきます。
 
 その際に、「この事業を実現するためにこういう組織を作る」というように、「事業ビジョン」と「組織ビジョン」のベクトルがきちんと合っていることが重要になります。
 

社員ときちんと対話する

 そして、経営陣で作成した組織ビジョンや理想の企業文化、HRポリシーのドラフトをもとに、社員と対話をしていくことが次のステップとして重要です。
 
 社員の声をきちんと聞き、その声を反映できるところは反映していくという姿勢自体が、社員の声が経営に反映されるという実績になっていき、社員のエンゲージメントが上がるきっかけとなっていきます。
 

ビジョンと人事評価の見直し

 その次に、組織ビジョン、理想の企業文化、HRポリシーを、等級制度と人事評価・報酬制度に落とし込んでいく作業が必要になります。
 
 人事評価制度とは、「こういう人は評価します。こういう人は評価しません」という、会社からのメッセージです。もし、これまでは人を育てる文化がなかったけれども、これからは社員が部下を育てる文化を作っていきたいのであれば、例えば、マネジャーの評価の半分ほどを、部下の育成・マネジメントにしてしまい、その評価・運用を徹底すれば、強烈なメッセージとなり、文化は2、3年すれば大きく変わってきます。
 
 人事評価・報酬制度を変更するときには、マネジャーの意識・行動・スキルの変革が成否を分ける要になりますので、マネジャーの変革には、腰を落ち着けてじっくりと行う姿勢が重要です。

 
 また、評価軸を変更するということは、これまでとは違う能力や行動を求めていくことになる訳ですから、社員教育が必須になってきます。
いきなり評価軸だけを変更するのは乱暴です。社員が、その評価軸を理解し、その能力を高めていくための教育の仕組みを一緒に導入しなければ、社員から大きな反発を生むでしょう。
 
 
 教育の仕組みを入れる際には、社員の成長マインドセットを刺激し、成長したいと思える企業文化を作ることが重要になってきます。この成長マインドセットがある企業文化と、風通しのいい心理的安全性の高い企業文化ができると、ハイエンゲージメントな組織への転換が成功したと言えます。
 


森田 英一(もりた えいいち)
beyond global グループ President & CEO

 
大阪大学大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて人・組織のコンサルティングに従事。その後シェイク社、beyond global社を創業。日系企業のグローバル化支援事業を手掛ける。社員の主体性やリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発ファシリテーションに定評がある。日本全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。主な著作「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「会社を変える組織開発」(PHP新書)など。日経スペシャル「ガイアの夜明け」「とくダネ!」などメディア出演多数。シンガポール在住。シンガポール在住。
人と組織の可能性を拓く beyond global グループ(シンガポール・タイ・日本)
グローバルリーダーシップ研究所
Email: info@beyond-g.com

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