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危うし!日系企業の常識・非常識

2020年9月14日

受け身の社員を生み出す構造

 「ローカル社員が受け身で困っています。どうやったら、もっと主体的に動いてくれるのでしょうか?」
 
 このような相談が、かなりの数、私のところに来ます。一方で、下記のような相談も来ます。
 
「ローカル社員が、日本人よりもよっぽど優秀で、主体的に成果を出してくれています。彼らをどうマネジメントしていったらいいのか悩んでいます」
 
 前述の「ローカル社員の受け身問題」で悩んでいる会社にお伝えするのは、「ローカルの人の大多数が受け身なのではなく、あなたの会社が受け身の人を生み出す構造、受け身の人だけが残る構造になっている可能性があります」ということです。
 

受け身社員を生み出してしまう理由

 では、「受け身を生み出す構造」とはどういうものでしょうか?
 
 まず理解すべきは、「社員にとって、受け身の方がメリットがある構造になっている」ということです。
 
 例えば、頑張って意見を伝えても、
 ・真剣に聴いてもらえない
 ・伝えても、何も変わらない
 というような経験があったり、
 
 逆に、主体的に動いても、
 ・上司に、「余計なことをするな」と言われる
 ・正当に評価されず、受け身の人と評価は変わらない
 ・上層部は駐在員が占めており、ローカル社員がそこまで出世できるチャンスは皆無に思える
 という状態であれば、やる気のある人でも、やる気を削がれてしまうでしょう。
 
 この「やる気を削ぐ構造になっていないか」という確認をする必要があります。
 

従業員エクスペリエンスの重要性

 最近、従業員エクスペリエンス(Employee Experience)という言葉が、よく聞かれるようになりました。カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience:顧客体験)などのマーケティングの概念から派生して生まれた考え方で、従業員の視点から、従業員が入社してからどのような体験・経験をして、何を感じるか、何にやりがいを感じたり、不満に感じたりするかの、ワークエクスペリエンスを深く理解することで、従業員エンゲージメント(積極的な関与)を高めていこうという考え方です。
 
 日本企業は一般的に会社側の視点が強く、従業員は会社側のリクエストに従うものという意識(カンパニーセンタード)があります。ただ、それは、海外の現地法人で通用するわけではありません。
 
 従業員のエンゲージメントを高め、主体的に動き、会社業績に貢献する社員を増やすためには、今一度、従業員エクスペリエンスを見直し、自社が、従業員に対して、どのような意識になる構造を生み出しているのかを改めて見直すことが重要です。
 
 もし会社にやる気を削ぐ構造があるなら、やる気のある人は、「辞めてしまう」か、「残って、やる気なくぬるま湯に染まっていく」かの二択になってしまうでしょう。
 

自社の構造を見つめなおす

 「うちの会社には受け身の社員が多いな」と感じたら、「受け身を生み出す構造があるのではないか」と疑ってみることをお勧めします。もしかしたら、これまでの前任者が、マネジメントしやすく、あまり意見を主張せずに言うことを聞いてくれるローカル社員を中心に採用していたのかもしれませんし、前述した構造のためにやる気のある社員が辞めてしまい、受け身の社員だけが残る構造が固定化してしまっているのかもしれません。
 
 特に一般的な日本企業は、「管理職になっても、給与はそれほど上がらないけれども、厳しい成果主義でもなく、マネジメントも緩く、クビになりにくいため、そこそこ働いて、長く働くにはいい職場」という噂が、ローカル社員の中で、広まっています。
 
 受け身を生み出す構造を抜け出すには、
 ・実力主義・成果主義のフェアな人事制度の導入
 ・少なくとも、GMクラスまで昇進できるキャリアパス
 ・日本本社や他の拠点に異動できる仕組み
 ・マネジャー以上を育成する仕組み
 という仕組みの部分と、
 
 ・ローカル社員の意見を聴いてもらえる
 ・ローカル社員の意見が尊重されて、経営に反映される
 というコミュニケーションやスタンスの変革も重要になってきます。
 
 あなたの会社では、どのような「構造」が生まれているでしょうか?一度、見つめてみることをお勧めします。
 


森田 英一(もりた えいいち)
beyond global グループ President & CEO

 
大阪大学大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて人・組織のコンサルティングに従事。その後シェイク社、beyond global社を創業。日系企業のグローバル化支援事業を手掛ける。社員の主体性やリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発ファシリテーションに定評がある。日本全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。主な著作「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「会社を変える組織開発」(PHP新書)など。日経スペシャル「ガイアの夜明け」「とくダネ!」などメディア出演多数。シンガポール在住。シンガポール在住。
人と組織の可能性を拓く beyond global グループ(シンガポール・タイ・日本)
グローバルリーダーシップ研究所
Email: info@beyond-g.com

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