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危うし!日系企業の常識・非常識

2020年8月11日

時代遅れの人材マネジメントをアップデート

 新型コロナの影響で国をまたぐ移動が制限され、駐在員がそもそも入国できなかったりしています。また、シンガポールにおいては、ビザの基準が年々厳しくなり、駐在員よりも、ローカル社員の比率を高めていくことが政府から求められています。
  
 以前から、ローカル化を推進したい、というお話は多くの会社でお聞きしていましたが、これまで通りの駐在員主導のやり方から、なかなか脱却できないケースが多かったように思います。それが今回の新型コロナとビザ基準の引き上げで、否応なく、ローカル化に本腰を入れ始めた会社も多くなってきました。
 

ローカル化とグローバル化

 ローカル化とは、一般的に、日本人駐在員中心のマネジメント体制から、ローカル社員中心のマネジメント体制に変えていくことを指していることが多いかと思いますが、特に、シンガポールにおいては、いろんな国から優秀な人材が集まってくる場所でもありますので、ローカル化ということのみならず、グローバル化ということも視野に入れるといいかと思います。
 
 組織のグローバル化とは、日本人駐在員中心ではなく、世界中、国籍・人種・性別などを問わず、適任の人が事業運営を行う状態であり、組織全体のグローバル最適を追求していくことです。そのためには、国を超えて人事制度を統一したり、国を超えて異動したりします。実際、日本企業でも、グローバル化を目指し競合の欧米企業から、部門長クラス以上をヘッドハンドして、駐在員よりも上のポジションに就けるケースも出てきています。
 

 
 自分たちの事業の今後の成長や戦略にとって、ローカル化を目指すのがいいのか、グローバル化を目指すのがいいのかは、改めて検討が必要かと思います。
  

求める人材像の見直し

 その上で、ローカル化なり、グローバル化を目指そうと決めた時、ほとんどの場合、あるべき社員像がこれまでと変わります。例えば、それまでは「本社や駐在員の出す方向性や日本のカルチャーを理解し、言われたことをきちんと着実に実行するまじめな人材」を主に採用していたかもしれません。また特に、日本語が話せる人を優先的に採用するということも起こりがちです。
 
 一方、ローカル化や、グローバル化を目指そうとした時には、ローカルでのビジネス拡大や、グローバル規模でのビジネス拡大を主な目的として捉えた時に、自分で方向性やビジョン、戦略を考えて、周りの人に影響力を与えて実行できる人があるべき社員像として新たに設定されることが多くあります。
 

 
 言われたことを着実に実行する、まじめな人材を採用してマネジメントする人材マネジメント手法と、自分達でビジネス拡大のビジョン・戦略を考え、周りの人を巻き込みながら実行する人材をマネジメントする人材マネジメントの手法は、まったく異なります。
 

ハイパフォーマー人材の特徴

 言われたことを着実に実行するまじめなオペレーション人材には、従来の日本的な安定的で曖昧な人事制度でもある程度フィットするでしょう。また、トップダウン的な人材マネジメントでも、ある程度は機能する部分があるかと思います。逆に、自分達でビジネス拡大のビジョン・戦略を考え、周りの人を巻き込みながら、実行するハイパフォーマー人材には、安定的で曖昧な人事評価・報酬制度はフィットしません。
 

 
 評価基準が明確に示されており、そのフィードバックもきちんと適切に実施され、報酬も市場水準以上のものが求められるでしょう。このような人材は、トランスペアレント(透明性があり)で、フェアな制度を求める傾向が強くあります。
 
 また、長く活躍してもらうためには、明確なキャリアパスや、成長する仕組みとして、2・3年毎のストレッチ・アサインメントと、研修・育成制度が重要になってきます。このような人たちにとっては、自分の可能性を広げ、成長し、自分の人材価値を高めてくれることを求めてきます。
 
 このような人を惹きつけるためには、ビジョンが重要になってきます。単なる数値目標ではなく、心が刺激され、ワクワクするようなビジョンです。そのビジョン達成のために、この会社で頑張ろうと思うようなメカニズムが重要になってきます。
 
 こういう人材が入ってくると、駐在員に対しても、耳の痛いことを言ってくるでしょう。ある種、特権階級として来ている駐在員に対して不満が出てくることも想定されます。
 
 こういう人材は、フェア(公平)であることを求める傾向にあり、駐在員のパフォーマンスに対しても厳しい目で見てくるでしょう。特にグローバル化を目指すには、本社から日本人が優遇されるという特権を手放し、国籍、人種などに関係なくフェアに評価され、配属もフェアに決まるという覚悟が必要になってきます。駐在員という立場だけで、優遇させる時代は終わりを告げつつあります。駐在員というからには、グローバルで活躍し、様々な国籍の人を巻き込んで結果を出し続ける実力が求められる時代になってきています。
 

日系企業の新たな競合は新興企業

 我々日系企業の競合は、もはや日系企業ではなく、欧米企業や中国企業、各国で成長し続けている新興企業になってきています。今の人材マネジメントのやり方、人の活かし方で、勝てているでしょうか?
 
 欧米企業や、中国企業は、人材マネジメントの手法をこの20年間で大きく進化させてきました。例えば、エンゲージメント、エンプロイーエクスペリエンス、ノーレイティング 、OKR(Objectives and Key Results)、1 on 1ミーティング、組織開発、脳科学、HRテック、ピープルアナリティクスなど色々な概念や手法を取り入れて効果を上げてきています。
 
 これまでの駐在員中心でマネジメントするやり方は、優秀なローカル社員を活用する上でボトルネックになっています。これから長期的に、日系企業が海外で結果を出し続けるためには、これまでの人材マネジメントのやり方に改めて疑問を投げかけ、欧米企業や中国企業などからも学べるものは学んだり、我々独自のやり方を追求していくことが必要なのではないでしょうか?
 


森田 英一(もりた えいいち)
beyond global グループ President & CEO

 
大阪大学大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて人・組織のコンサルティングに従事。その後シェイク社、beyond global社を創業。日系企業のグローバル化支援事業を手掛ける。社員の主体性やリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発ファシリテーションに定評がある。日本全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。主な著作「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「会社を変える組織開発」(PHP新書)など。日経スペシャル「ガイアの夜明け」「とくダネ!」などメディア出演多数。シンガポール在住。シンガポール在住。
人と組織の可能性を拓く beyond global グループ(シンガポール・タイ・日本)
グローバルリーダーシップ研究所
Email: info@beyond-g.com

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