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亜州ウォッチ!

2020年2月17日

タイ銀行業界:本国苦戦でインドネシアに触手、M&Aの動き表面化

第5回 ニュースとデータで読み解く アセアン業界動向

 大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。
 

タイの大手銀行で広がるインドネシアへのM&A

 経済成長のペースが減速し始めているタイでは、新たな成長エリアに進出したいと考える大手銀行がインドネシアの中堅銀行に対しM&A(買収)攻勢をかけている。先日も、バンコク銀行がプルマタ銀行を買収することが明らかにされたばかりだ。特に、インドネシアには中規模・小規模の銀行が多いので、買収先としての魅力度が高く、今後もこれに追随する動きがみられそうだ。まず、2019年12月のニュースをご覧いただきたい。
 

バンコク銀、インドネシアのプルマタ銀買収

 バンコク銀行は12月12日、インドネシアのプルマタ銀行を買収すると発表した。株式の89.12%を約37兆4,310億ルピア(約2,930億円)で取得する。国内で経済成長が減速しているうえ、政策金利が過去最低水準まで低下するなか、海外で事業拡大を図る。
 
 同国の複合企業大手アストラ・インターナショナルと英スタンダードチャータード銀行から株式を買い取る。来年中に手続きを終える予定。残り10.88%の公開買い付け(TOB)も行う。
 
 バンコク銀は海外14ヵ国・地域に進出し、海外拠点による融資は全体の17%を占める。インドネシアは経済成長が著しいうえ若い人口が多く、タイ企業の進出も増えていることから有望市場と見込む。
 
 プルマタ銀は1955年設立。資産総額は152兆8,928億ルピアに上り、インドネシアで12位につける。国内に支店332ヵ所、ATM(現金自動預払機)989ヵ所を展開し、350万のリテール顧客を擁する。
 (「亜州ビジネスASEAN」19年12月13日付ニュース)
 

「中所得国の罠」に陥りつつあるタイ経済

 こうした海外銀行を買収する動きの背景には、冒頭で触れたようにタイ経済の減速がある。四半期ベースのGDP成長率をみると、18年第1四半期の5.0%をピークにほぼ右肩下がりとなり、19年第2四半期は2.3%まで低迷。第3四半期も2.4%と大きな回復はできていない。経済成長の鈍化にともない高所得国への移行が進まず、長期にわたり中所得国に留まる、いわゆる「中所得国の罠」に陥りつつあるといえよう。これに加えて、折からのバーツ高や米中摩擦が輸出関連の産業に影響を与えており、景気の足を引っ張っている格好だ。
 

 
 前述したとおり、タイにおいて長らく続く景気の鈍化は、当然ながらタイ銀行業界の収益環境にも悪影響を与えている。12年に16%を超えていた貸出伸び率は、以降10%を下回る状態で低迷を続けている。17年に8.6%になり回復傾向かと思われるも、その後18年には2.9%まで下落。今後も、急激に環境が好転するか不確かである。
 

インドネシアは貸出伸び率も堅調

 一方、タイほど景気が減速していないインドネシアでは、銀行の貸出伸び率も底堅い水準で推移。12年の24%からは下落傾向が続くも、タイの貸出率よりは高い。また、18年には11.1%にまで回復しており、今後も期待できそうだ。
 

 

タイ銀行業界、今後の見通し

 バンコク銀行によるプルマタ銀行の買収は、タイ銀行業界の長期戦略を象徴する動きといえる。他行もこれに続き、海外銀行の買収を進める可能性が出てきてもおかしくはない。さらに今後は、銀行業界だけにとどまらず、他の業種でもインドネシアやフィリピンといった成長が見込まれるエリアで、M&A攻勢が本格化していく流れとなろう。
 

(亜州IRアセアン編集部)

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