シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP【三井物産 シンガポール副本部長】菅原 正人さん

ビジネスインタビュー

2019年6月25日

【三井物産 シンガポール副本部長】菅原 正人さん

キーワードは「アジア」日本の物産ではなく、「アジアの三井物産」で高きを目指す

 アジアを地盤とし、アジアを背負い立つ存在に――。米中貿易戦争に端を発した世界経済の先行きを見据えつつ、マルチナショナルなオペレーションを持つシンガポールをアジアパシフィックの重要統括拠点とし、アジア強化を邁進する三井物産。人口拡大が続くこのアジア諸国で突出するべく、消費者に焦点を当てた「環境と健康」分野に狙いを定めてアグレッシブに突き進む、アジア・大洋州本部の副本部長兼CAOの菅原正人氏に話を伺った。

 

三井物産とシンガポールについて

シンガポールでの取り組み

 シンガポールはアジアのハブという土地柄、三井物産アジアパシフィック地域15ヵ国の統括拠点です。扱っているのは、ハードウェアでいうと船や金属スクラップ、インフラ建設鋼材、石油製品、ソフトウェアでいうと金融や商品市場でのトレーディングなどです。最近では、本年3月にIHH(東南アジア最大手の病院)の病院事業へ増資また2018年末に、SIS(シンガポール最大手の砂糖会社)を当社とグループ会社の三井製糖と合弁で完全買収して、ここを拠点にして中東などの諸外国へ輸出しています。アパレルでいえばアンダーアーマーの販売代理店の事業に20%出資していて、アセアンの販売代理店です。社内コンペの際には全員アンダーアーマー着用という暗黙の了解があります(笑)。

これまでのシンガポールとの関わり

 旧三井物産(※)は1891年にシンガポールの最初に出張所を設けました。現在の三井物産は、戦後の1957年に新たにシンガポールに拠点を開設しましたが、それ以来当社はシンガポールを重要な拠点と位置付けており、それを象徴するのが歴代の支店長が使用してきた社宅(現在はアジア大洋州本部長宅)です。「三井ハウス」とも呼ばれていて、タングリン・ヒルの閑静な高級住宅街にあります。今でもゲストハウスとしてお客様を招待したり、社内懇親の場として活用しています。こういう場所に土地を持てるというのは、当地で長くビジネスしてきた歴史あってこそ。感謝しきりです。
 
 私自身で言えば、31年間の会社生活の中でアジアに駐在して仕事をするのは初めてです。入社以来中東での石油や石油化学関係、また海水淡水化などのプラントを売る仕事に携わっていました。その後はブラジルやメキシコの中南米が中心でした。
 
 来星して感じたのは、アジアにおける”ジャパン”ブランドのイメージが相当強いということ。日本の製品や商品も多いし、日本の文化がリスペクトされていると感じます。日本企業は経済面でもっと強く存在感を発揮すべきではないでしょうか。これはシンガポールだけに限らず、外国人がそれぞれ感じてくれる「日本」の良さや持ち味を使ったビジネスを、もっと現場目線でイニシアチブを取って、現地の人々と一緒に仕事を作っていく、それを意識するだけでも、もっと違う切り口になると思っています。日本のビジネスパーソンはまだまだ頑張る余地がある、創意工夫の余地があると思っています。

 

基盤はアジア 消費者と密接なビジネスで攻勢をかける

三井物産の今後のスタンスや戦略

 これからは「アジア重視」、狙い目は「消費者」「環境」「健康」です。これが来年度の中期経営計画という節目の中で謳っていくキーワードになると思っています。
 
 人口と経済成長を見た場合、日本企業の地盤はアジアです。人口が多く、かつ、中間所得者層が増えていく、消費者の力がどんどんこれから強くなるこのアジアで存在感を発揮し、基盤にしていこうというのが当社のスタンスです。当然、アジア戦略の統括拠点として位置付けられている当地のビジネスの質も量も強化されていくでしょう。
 
 もともと当社の強みは、重厚長大系、上流系の産業にあって、これはこれで強みを維持しながらやっていきますが、これからは消費者が発言力を持って経済を引っ張って行くようになるでしょう。いかに消費者との接点を大事にしてビジネスをしていくか。とはいいつつも、病院事業をしながら、砂糖を売っているという(笑)。なんでもやっているというのが商社の特徴ではありますが。

特別な取り組みや、シンガポールでの人事面で気を付けていること

 意識しているのはシンガポールのハブ機能を使った多国籍、マルチナショナルなオペレーションです。域内の優秀な人材が切磋琢磨する「場」がある。ここから生まれる新しいバリューをすごく大事にしています。新しい地域での戦略や投資案件など、全てここで議論をして決断を下していく、いわゆるセンター機能として各国の優秀な人材を集めていますので、当然、社内は英語が公用語。これは全社の中でも先進的な試みです。また、当地は短期トレーニングセンターのような機能もあるので、頻繁にいろいろな人が出入りしています。比較的コンパクトな街で各国からのアクセスがよく治安もいいので、そういう良さをフルに活用しています。

 
 (人の)定着率に関していえば、ロイヤリティーを持って仕事をしてくれている方がほとんどですが、人の入れ替わりは確かにあります。最初からジョブホッピングが目的の人もいるし、あとは給料水準。日本企業の場合、それほど一気に増えないし、あるいは、まだまだトップが日本人でキャリアの天井を感じてしまって、というケースもあります。仕事を面白いと思ってもらえるよう、日々、意識するようにしています。機会とスキルを積む場を与えて、やる気がある人は引き上げる。
 例えば、当地の大学を卒業した女性を将来のマネージメント候補としてシリコンバレーに転勤させて、世界での研鑽を経てここに帰ってくる、というケース。こういうのがもっと増えてくればよいと期待しています。

 

「トップ」が率先すれば、組織は変わる

商社の経営が事業ベースになりつつある中での、ミッション達成のための戦略とは

 どういう戦略でどう攻めていくのかによっても変わりますが、現場をよく理解して、プロアクティブに次を読んで手を打っていくとなると、必然的に現地の人、現場をよく知る人たちの存在が重要になる。だから、いつまでも日本人が日本からやってきてあーだこーだやっている時代じゃないと思うんですね。現場の人間を新卒で雇って、ゼロから育てる。日本では今まで普通にやってきたことです。それをシンガポールに限らず、そのほかのアジアの国でもやってみようと。昔はある程度経験を積んだ即戦力になる人材の採用が多かったのですが、最近は気を抜くと優秀な人材ほど抜けていく。そういう人たちから見て残りたい、もっとやりたいと思える会社にしていくことが、今後、対策として必要だとも思っています。

AIの導入がもたらす経営インパクト

 モノを売ったり買ったり、いろんな事業に参画してその事業会社の収益を連結で取り込んだり、その辺の業務プロセスを合理化、効率化することはAIブームになる前からやっていますが、今後、さらに加速していきます。リアルな場で使えるシステムかどうかは、やってみないとわからないことが結構あります。SAPも当社は相当入れていますが、かなり試行錯誤してカスタマイズしながらやってきました。やはりIT・AI化、あるいはRPAなどの話も、あまり頭でっかちにならずにとにかくやってみるのがいいと思います。やりながら改善していく。場合によってはその成功例がビジネスとして外に売れるようなパッケージになる可能性があるかもしれません。実験場というか、そういう試みを今、やっています。そうしてみると顕著なのは、IT人材ニーズ。ITリテラシーを持つ人材は引く手あまたです。我々自身も含めてITについて知識を増やしていかないとだめですね。会社としては相当力入れていますが。
 
 またペーパーレスを去年あたりから経営のトップ自らがやり始めました。やるなら徹底しないと、ということで、会議でも紙持参はだめ、紙は持ってくるなと。幹部との打ち合わせに、紙を配ることがためらわれるという状況ですね(笑)。全員がタブレットを持つことを義務付けたら、上がやっているから下もだんだんそうなってきて、この一年でずいぶん浸透しました。その意味でiPadなどの情報端末の登場は大きかったですよね。たまにwifiがつながらないとかそういう問題はありますけど。とにかく、トップから「変える」。トップが率先してやることは、組織にとって大きな変化をもたらします。

今後の抱負

 アジアで評価される会社になる。アジアでの存在感をもっと強くしていきたい、と思っています。日本の会社としてプライドを持っていますが、未来永劫、日本の会社ですというのではなく、「三井物産ってアジアの会社だよね、もともとどこの国だったっけ?」と言われるようになるくらい世界で存在感があって、どこでもアクティブにやっている会社になるように、そのような将来像を持って会社に貢献していきたいと思っています。これからアジアは人口の多い国がどんどん成長していく。そういう国が発言権を持っていくでしょうから、そこで評価される企業価値を持つ。その来たる波に乗っていたいな、という思いでいます。
 

菅原正人氏について

日本人会の会長に就任

 シンガポールの日本人会は歴史と伝統があって、すごい一体感ですよね。ここまでやるのかと思うくらい団結力、組織力がある。この素晴らしい資産を維持して後任につなぎつつ、時代に合わせた会員の価値観や感情を踏まえて、変えていくものは変えていきたいです。理事会の運営組織の在り方や会長の選任方法などについても任期中に考えていこうと思っています。
 
 外国人としてこの国に住まわせてもらっている立場として、シンガポール側にコミュニティとして受け入れられるよう、イメージ向上に努めていきたいですね。

会員の皆様へのメッセージ

 日本人のためのアソシエーションとしての機能はもちろん、シンガポールとの交流、日本の良さや文化とか社会をいかに広められるかを考えていきたいと思っています。日本人だけのための組織ではなく、日本人がこれからの時代、国際化していく中でのこういう組織、役割を担っているのだということをもっと自覚していく。日本人会のこの素晴らしい施設をもっと広く利用してもらうとか、日本の文化を知ってもらうための企画イベントを計画するなど、理事会だけなく、会員の皆さんにも広く意見を募っていきたいと思っています。

趣味、休日の過ごし方は?

 別に水泳選手というわけではないのですが、もう10年間以上、週末泳ぐというのが習慣です。来星してうれしかったのは住んでいるところにプールがついていたこと。日本だと家の近所のスポーツジムに通うのですが、定休日だと違うジムをはしごして、泳ぐ場所と時間を確保しなければならなかった。でも、ここはいつでも好きな時に泳げる。これは非常にうれしいです。土日は朝早起きして泳ぐようにしています。たまに平日も泳ぎたいなと思うときはあるのですけど。でも、あまりやると水泳オタクみたいになっちゃうかな、と思って(笑)。週末はもっぱらかみさんと買い物やおいしい店探しとか、家族サービスです。

今までに影響を受けた本、お勧めの一冊は?

 時間を忘れて没頭した本は、小学生時代に読んだ『シャーロック・ホームズ』シリーズです。ワクワクしながら全巻読みました。これでロジカルシンキングを学びました。人生を通して、間違いなく最も熱中して読んだ本ですね。
 以前、ホリエモンさんが拘置所にいた時に、中国の『史記』を全巻読んだという記事を見まして、実は結構うらやましいなと思いました。決して読書家というわけではないのですが、ここ20年くらい時間を気にせずゆっくり本を読めていない。1ヵ月くらい休みがあって静かなところでゆっくりできるなら、もう一度、シャーロック・ホームズを全巻読みたいですね。漫画も好きなので『ドカベン』や『ワンピース』を全巻まとめて読むのも夢です。

座右の銘

 三井物産の社是でもあるのですが、『挑戦と創造(チャレンジ&イノベーション)』。会社人間と言われそうですが、若手の教育とか会社の方針とか戦略をまとめたりするときによく使っていて、噛めば噛むほど味が出る、という言葉かなと思っています。あと、少し受け狙いでいうと『君子豹変』でしょうか。意外と多くの人がネガティブなイメージで捉えていますが、元々はポジティブな意味で、ころっと変われてこそ君子だ、と。変わらないとだめなんだ、という意味だと聞いて、それを聞いた時は感動しました。なかなか前言を撤回するというのは難しいですし、軽いと思われるのもリーダーとしてどうかなと思いますが、リセットというか、ガラッと変えようという勇気と決断力が必要だと、最近、とみに感じるところはありますね。

 


三井物産株式会社 執行役員
アジア・大洋州本部シンガポール 副本部長兼CAO (Chief Administrating Officer)
菅原 正人
 
1963年1月7日生まれ東京大学法学部私法コース卒業。 1987年、三井物産入社。経理部に配属。中東、化学プラント、重機部を経て、2001年、 米国三井物産ニューヨーク支店の CM に就任。その後、プラントプロジェクト開発部 長、人事総務部企画室長、機械・インフラ業務部長を経て、2018年に来星、アジア・ 大洋州本部シンガポールの副本部長兼CAOに就任。2019年に執行役員として、現職。

(※) 法的には旧三井物産と現在の三井物産には継続性はなく、全く別個の企業体です。
(聞き手/内藤剛志、編集/野本寿子)

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