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シンガポールEYE

2019年10月25日

ナイトライフ業界で生き残るには?

バー&ラウンジ経営、イベント主催者 ロビー・ホイズ・コック氏インタビュー

 今年10月発表の『The World’s 50 Best Bars 2018』では、シンガポールのバー2店が10位内に食い込む快挙を見せるなど、最上級のクオリティやサービスで世界から高評価を受ける一方で、過去10年に国内有名ナイトクラブの20軒以上が相次いで閉店。そんな足元の景気や業界を取り巻く経営要因をもろともせず、ラグジュアリーをコンセプトに快進撃を続ける人がいる。Robbie Hoyes-Cock(ロビー・ホイズ・コック)氏だ。銀行マンからナイトクラブ・バー経営者に転身した異色の経歴を持つ。F1シンガポールグランプリのアフターパーティー『The Podium Lounge(ザ・ポディウム・ラウンジ)』の主催も務める同氏にナイトライフ業界の現状やビジネスをする上での難しさについて話を聞いた。

 

――――過去10年でナイトライフシーンは目まぐるしく変わりました

 まず、2010年にマリーナベイ・サンズとリゾート・ワールド・セントーサができたことが大きな変化点ですね。特に、今年4月マリーナベイサンズにオープンした高級クラブ『Marquee Singapore(マーキー・シンガポール)』は、国内最大の規模(2,300sqft)。そのような場所を訪れる、高い可処分所得を持つ観光客が市場にお金を落とすことによって経済が回っています。また、この10年間に起きたカクテル・ブームは目覚しく、近年カクテルやバーが相次いでオープン。昨今の流れは、ナイトクラブ・ビジネス市場を席巻し、当地でも今や900店を超えるバーやクラブがしのぎを削っています。その中からカクテルを得意とする『ATLAS(アトラス)』と『ManhattanBar(マンハッタン・バー)』の2店が、2018年世界のベスト・バー・ランキングに選ばれたことも、記憶に新しい。
 反対に、かつて栄華を極めたナイトクラブはこの10年で衰退していきました。例えば、国内最大級だったクラブ『StJamesPowerStation(セント・ジェームス・パワーステーション)』が2018年に閉店、2008年にインターナショナル・ナイトクラブの先駆け『Ministory of Sound(ミニストリー・オブ・サウンド)』閉店、アメリカ・ハリウッドのセレブリティー御用達クラブの支店にあたり、マリーナベイ・サンズにオープンし、わずか2年で閉店となった『Avalon(アヴァロン)』、そして『Panguea(パンゲア)』など。有名店の相次ぐ撤退は衝撃的でした。かつて週末にナイトクラブに通っていた人々の趣向が、音楽フェスティバル、コンサート、そしてカクテルバーへと変わっていったためだと考えています。有名店であっても長期経営が困難、かつ入れ替わりが激しい業界で生き残るには、サービスの質、立地、ブランド力、スタッフの努力など様々な要素に恵まれた強いプレイヤーになる必要があると思います。
 

――――この業界で生き残るには、観光客をいかに引き入れるかにかかっている?

 
 観光客、出張者、トランジットで立ち寄る人々からの消費による売上増加の機会は大いにあると見ています。しかし、観光客にだけ頼っていても生き残ることはできません。長期にわたって毎週のように通ってくれる顧客や、ブランドをローカルアンバサダーとして宣伝してくれるような顧客を持つ必要があります。私の場合は、新作カクテルをメディア関係者、有名なローカル・ブロガーなどのインフルエンサーに紹介し、それを記事にして発信してもらっています。やはりブランドを積極的にアピールすることが大切です。
 もちろん、すべての人が満足できるビジネス・コンセプトを作るのは正直不可能だと思います。しかし、シンガポール独自の多様性あるナイトライフが楽しめる国として、国際的にも認知されつつあるわけだから、この部分を是非ビジネスで活用すべきです。例えば、欧米系に人気のビーチクラブやクラブ・ストリート、サルサバー、アラブ・ストリート界隈、ハジレーンなども、他の国にない魅力ですよね。
 

――――2015年のアルコール法改正、2016年にはシーシャ(水たばこ)が法規制の対象となりました。ナイトライフ業界でビジネスをする上で困難なことは?

 

 2013年リトルインディアで起きた、酒に酔った建設現場作業員たちによる暴動を受けて、2015年4月1日にアルコール法が改正(平日は午後10時半、休日は午後8時から朝7時までの間は公共の場での飲酒が禁止)されました。また2016年からはシーシャ(水たばこ)が禁止。このような環境下に加え、ライセンス法(営業時間、アルコールやエンターテイメント)と雇用法(人件費、外国人労働者数制限)、そして共感力が乏しく、がめつい物件貸主が、バー・クラブの経営者にとって最大のチャレンジでしょう。
 営業時間について、私のバーの場合、平日は午前3時まで、土曜・祝前日は午前4時まで営業できるライセンスを取得しています。しかし、24時間営業可能なライセンスを取得していればベネフィットが大きく、シンガポール在住者、観光客を日夜問わず取り込むことができます。マクドナルドやチャンギ国際空港で明け方近くても多くの人が行き交う様子を見れば、24時間営業ができないことによるビジネス損失は大きいです。
 雇用については、シンガポール全般的に言えることですが、ホスピタリティ業界で人材を雇用することが難しいと言われています。外国人労働者雇用数の制限、Foreign Worker Levy(外国人雇用税)により、良い人材を重要な役職に確保することが容易ではありません。しかし、シンガポール人雇用確保のための政府の取り組みなので、ある意味合理的だとも思います。
 

――――銀行マンというキャリアを捨て、クラブビジネスを始めたきっかけは?

 
 シティバンク・アジアパシフィックで働いていた頃、お金を追いかけてばかりの仕事にストレスを感じていました。途方に暮れ自らの半生を見直して気づいたことがある。ギリシャで生まれ、生後10ヶ月でシンガポールに移住、ここで育った私の強み、幅広いネットワーク。これを生かして、2005年にタンジョン・パガーのMOXで、友人たちを呼び第1回目のイベント『ホワイト・パーティー(白い服がドレスコード)』を行ったところ、準備期間わずか3日で大成功を収めました。1ヵ月後にクラブストリートのSenso Restaurantで第2回目の仮面パーティーを企画すると、シティバンクの月給を超えた収益となったのです。「月1回イベントを開催すれば、生活できる。これからは自分が楽しいと思うことを仕事にする」と決意し、これをフルタイムの仕事とすることに決めました。
 

――――9月20〜22日に開催された『The Podium Lounge(ザ・ポディウムラウンジ)』は大盛況でしたね

 
 F1に合わせてリッツカールトン・ミレニア・シンガポールで開催しました。今年で11年目を迎えますが、毎回世界的に知名度の高いアーティストを招聘しています。今年はスパイス・ガールズのメラニー・Cがオープニングナイトでパフォーマンスするなど世界的に有名なミュージシャン、俳優が出演。昨年は優勝したルイス・ハミルトンも出演した。歌にサプライズに、ファッションショーと、顧客が一瞬も退屈することがないプログラムを心がけています。2009年のイベントでは、一晩に400人を集めましたが、現在では3,000人以上を一晩で集客できるようになったうえ、メディア露出も年々増えています。2017年に招聘したピクシー・ゲルドフがすっぽかしたこと、クーリオは入国審査で返されてしまったというハプニングもあり一筋縄では行かなかったこともあるけれど、ここまでブランドを育てあげたという想いがあります。
 この成功の裏には、シンガポール政府観光局による私どものイベントを含むF1グランプリ全体への協力体制も大きかったと思います。広告宣伝、海外へのプロモーションへの協力、そしてイベントを通したポジティブなフィードバックを参加者から頂けるよう、アジア地域、海外メディアに積極的に働きかけてくれました。
 

――――今年1月にはバー『The Monarchy(ザ・モナーキー)』もオープンされました

 
 近年のカクテル人気についてお話ししましたが、カクテルラウンジ、バー、クラブの要素を融合した英国をテーマにしたカクテル・ラウンジをトラス・ストリートのショップハウスに、オープンしました。ラグジュアリーなコンセプトを打ち出し、入り口からVIPアテンダントがエスコートしてくれます。店内に広がるディフューザーの香り、有名な仕立て屋Kevin Seah(ケビン・シーア)によるスタッフの制服など、VIPゲストや顧客が満足するよう細部にこだわりました。また、近隣の和食レストラン『Don&Tori』などから仕入れている和風バースナックを3種揃えています。カクテルは、Mr.ビーンやメリー・ポピンズ、ジャック・スパロウなどイギリスの文学やドラマ、映画などからインスパイアされたカクテルなどテーマ性十分なものばかりです。奥には隠し扉があり、DJイベントなど100名が収容できる空間が広がっています。多様なエンターテインメントで、近年変化する市場のニーズに応えられるようにしています。
 

――――今後の目標を聞かせてください。

 
 2020年フォーミュラ・ワンでホスト国となるベトナムで『The PodiumLounge』を開催すべく、懸命に動いているところです。
 

――――週末はどのように過ごしていますか?

 
 休みの日でも、常にビジネスのアンテナを張ってチャンスを逃さないようにしたいと思っています。でも、家族と過ごす時間は特別。素晴らしい妻Annaとの間にAmelia、Athena、Georgeという3人の子供に恵まれました。家族、友人たちとともに、白と黒を基調にした自宅でバーベキューをホストするのが一番の楽しみです。(取材・文/舞スーリ)
 

著者プロフィール
Robbie Hoyes-Cock(ロビー・ホイズ・コック)
イベント&パーティー、バー&ラウンジ経営兼投資家
ギリシア生まれ、シンガポール育ちのイギリス人。金融業界を経て、2009年にF1・VIPアフターパーティーThe Podium Loungeを創立。F1ドライバー、セレブリティーが出席するイベントとして、シンガポール、モナコ、メルボルンで国際的に認知されるブランドに成長させた。2019年1月にはバー「The Monarchy」をオープンした。

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