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ビジネスインタビュー

2019年10月25日

【グロービス経営大学院 学長】堀 義人さん

「志」のグロービス。常にチャレンジするリーダーを輩出し、 時代のうねりの中で、社会の創造と変革を促す存在でありたい

 日本のMBA界を牽引するグロービス。アジアNo.1のビジネススクールを目指すべく、 2019年にシンガポールに新キャンパスを設立、アジアでのリーダー輩出を加速しようとしている。今日におけるMBAの価値や「志」の本質とは何か、代表の堀義人氏に伺った。

 

Profile


グロービス経営大学院 学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
堀 義人(ほり よしと) 氏

 京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。YEO(Young Entrepreneur’s Organization 現EO)を始めとする若手起業家、世界の起業家を育成する活動に従事。2009年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月の震災後には復興支援のプロジェクト「KIBOW」を立ち上げ、2015年からは「KIBOW社会投資ファンド」を組成し社会起業家を支援している。2016年に水戸ど真ん中再生プロジェクトを始動し、茨城ロボッツの取締役兼オーナーに。公益財団法人日本棋院理事、いばらき大使、水戸大使など歴任。5男の父親で、水泳のジャパン・マスターズに毎年出場。地元をこよなく愛する水戸っぽ(茨城弁で水戸の人の意)でもある。

 

進化するMBA 時代に即した経営のプロフェッショナルを育てたい

シンガポールに新キャンパスをオープンされました。進出の経緯は。

 グロービス初の海外進出は2012年。上海とシンガポールで、法人向けの英語 企業研修の提供から始めました。2015年にはタイにも進出、現地での要望を受け2016年に個人向けに日本語での授業を開始。同年、シンガポールでも同様のサービスを開始後、2019年に新キャンパスを開設。10月から英語での個人向け授業を開始しています。
 当地 進出の決め手は、東南アジア のハブとしての魅力。RHQ(Regeonal Headquartes)機能を持った企業が多く進出していることから「経営」を学びたいと思う人は多く、市場としてのポテンシャルは高いと睨んだ。まずはここで しっかり結果を出して、選ばれる存在に なりたいです。

2000年前後に日本の大学でもビジネススクールの設置がブームと なりました。約20年たった今、今日のMBAの価値とは何でしょう。

 「経営」に必要な能力を効率的に学べる場は、ビジネススクール(MBAプロ グラム)にしかないと考えています。例えば、営業などのスキルはOJT(On the Job Training:業務を通じた従業員教 育)などで身につけられるかもしれません。でも経営を実践するには「知識」「能力」「コミュニケーション」を頭の中でパッケージ化して整理することが必 要。知識は書籍でカバーできても、意思 決定などの経営に必須となる能力は一 定の訓練が必要です。MBAには訓練の機会があります。また、コミュニケーショ ンも大切な経営の要素。組織に周知さ せるための「伝え方」も学べる。さらに、同じ想いや志を持つもの同士のネットワークが副次的に形成されることも、ビジネススクールで学ぶことの一つの価値になるでしょう。

時流のビジネスをいち早く学ぶという意味で、グロービスでは「テクノベート」という領域の科目があるとか。このテクノベートとは?

 「テクノベート」とはテクノロジーとイノ ベーションをかけあわせたグロービスの 造語で、新しいテクノロジーがこれまで にないビジネスを産み出す概念を表して います。2030年ごろには大学院や教育 のあり方も変わると思っています。我々も、テクノベート時代に則したビジネススクールとして、オンラインの教材や授業などにシフトしています。

 

志のある経営者を輩出し、 社会の創造や変革を目指す

教育理念のひとつに志の醸成」を掲げていらっしゃいます。この 「志」とはどのようなものですか。

 志は「社会の創造や変革をもたらす力」です。自分の生きる方向感覚といってもいいでしょう。一度やりたいことが 見つかれば自然とエネルギーが湧き、主 体的な行動が伴う。志があれば、社会に 新しい価値を生み出す「勇気」が出てくる。大きな課題にぶち当たっても乗り越 えることができ、たとえ失敗したとして も心が折れることはありません。誰しもが必ず「志」を心の中に持つはず。ない という人がいれば、それは見つかってい ないだけだと思います。
 
 私の場合、ハーバード・ビジネス・スクールで「日本にMBAを広めたい」という自分の志を見つけ、株式会社立の学校設立により、日本でのMBA業界の変革を起こしたと思っています。ビジネス・MOT(技術経営)の専門職大学院の入学 数に占めるグロービス経営大学院の入 学者数の割合は約38%(文部科学省の平成29年度調査を基にグロービス調べ)。かつての私がそうだったように、皆さんにもグロービスをきっかけに「志」を発見し、社会に創造と変革をもたらしてほしいと思っているのです。

MBAを取ろうと思ったきっかけは。また、ビジネススクール時代にどのようなインスピレーションを受けたのでしょうか。

 祖父も父もマスターホルダーでしたので、自らも修士号を取得したいと考えていました。京都大学の理系の学部に進学してのですが、実験が好きになれずに挫折して修士課程進学を断念。だけど、修士号を取りたいと思い続けていました。 すると、入社した住友商事にハーバー ド・ビジネス・スクールのMBAプログラムへの派遣制度があったのでチャンスだと考え、応募したのです。
 
 留学中は、感動の連続でした。コンサルやスタートアップといった様々なキャリアを持つ人たちが、こんなことをしたいという夢や志を語り合っていた。これまで触れたことのない価値観に出会い、自分の生き方の選択肢がぐっと広がった 感覚を今でも覚えています。
 
 この留学の経験から、アジアNo.1のビジネススクールを作りたいと強く思いました。帰国後、住友商事のプラント部門でMBAでの学びを成果につなげるように期待されていたのですが、志の実現のために起業を選びました。その後、渋谷の一室からグロービスを起ち上げたのです。

ビジネスを軌道にのせるまでの道のりについてお聞かせください。

 1992年に資本金5万円を友人16人から集め、小さな貸会議室を教室にして始めました。京都大学を卒業して、住友商事で働き、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得したのに、なんでビラ配りしているの?と周りからは笑われることもしばしば。でも、私には”アジアNo.1” になるという志があったから、気にならなかった。また、30年の長期的な視点で事業計画を想定し、着々と実績を積み上げていくことに専念しました。授業料の全額保証を設けたり、ケースメソッドとカリキュラムの工夫をしたり、やる気のある人を満足させるべく、質にはこだわり続けました。
 
 こうした試みが奏功して口コミで受講生は増加、2008年には学校法人としてグロービス経営大学院を開学します。現在では、日本語・英語両MBAプログラムあわせた入学者が約1000人となりました。これは、まさに私が創業当時に描いていた成長曲線の到達地点の一つでした。
 

エネルギーの源は、 人生における7つの座標軸

「水戸ど真ん中再生プロジェクト」やバスケットボールチーム、「茨城ロボッツ」を運営するなど日本を良くするための社会貢献活動でもフル回転のようです。タイムマ ネジメントはどのようになさっていますか。

  まず、私には人生における7つの座標軸があります。個人→家族→組織→地 域→日本→アジア→世界。小さいコミュニティから大きなコミュニティへとじわじわと波紋のように広がっている。各コミュニティでの満足度を上げ、どんどん広い範囲に拡大することが人生だと思っています。
 
 これまでは、個人から組織までの範囲を充実させてきました。これからはその先の社会へと貢献する義務があると思っています。現時点では、地域と日本をよくしようと努めているところ。それが「水戸ど真ん中再生プロジェクト」であり「茨城ロボッツ」です。小中高と水戸の歴史にまつわる学校で育った私にとって、愛する地域を元気にしたいという思いがあります。そしてその先にある日本も元気にしたい。たしかに忙しいですが、楽しみながらチャレンジしています。
 
 時間はやらないことを決めると、おのずと生まれます。私の場合、飲み会にいくことや小説の読書などは割愛。仕事もどんどん任せることです。

座右の銘は何ですか。

 「可能性を信じる」です。何かを成し遂げない人は可能性を追求せず「できない」理由ばかりを並べているんですね。 私はどんなに低い可能性だったとしても、本当にできないことが証明されるまでやってみる。自分の頭で納得するまでは”できない”と言わないようにしています。

最後に、読者へをお願いいたします。

 せっかくの海外生活ですから、何か目標を3つくらい考えてみてはいかがでしょうか。どんな目標でもいい。旅行でも、本を読むでも。目標を立てるということは、何がしたいのか、頭を絞ることになる。自己を振り返ることができるし、 目標に向かって動き出すと、得られるものが必ずあるはずです。

(取材・文/望月愛子)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.351(2019年11月1日発行)」に掲載されたものです。

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