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日系ゼネコンが手掛けた名建築 in シンガポール

2019年3月8日

第9回 アートサイエンス・ミュージアム

完成年:2010 年 / 設計:モシュ・サファディ / 施工:五洋建設

今やシンガポールを代表する景観の 1 つとなったマリーナベイサンズ。その 一角に斬新かつ家族連れでも楽しめる企画で充実した博物館、アートサイエンス・ミュージアムがある。美術と科学はルネッサンス期の巨匠により統合し発展し、今日においても有意義である。この様なテーマを持った博物館は、美術か科学の専門性を持ちつつも、もう一方の理解を持つ人材を育む為の場として重要である。建物全体が蓮の花(及び指や船)をモチーフにして設計されている。風水的に蓮の花は人を招く意味があり、高さや幅が異なる 10 枚の花びら状のボリュームが、蓮で満ちた水盤より11m の高さに大小異なるトラス部材で持ち上げられている。

 

建物は複雑な 3 次元曲面で構成され、様々なソフトがデザインに用いられた。建物のベースモデルは、3 次元曲面の設計に強いライノセラスで作成。構造設計事務所 ARUP は、それをジャネレティブ・コンポネントというソフトに取り込み、構造トラスをデザインした。更に、GSA というソフトによりトラスの断面を決定し、そのデータを、マイクロステーション・トライフォーマットで BIM 化。詳細構造設計ソフトであるテクラ・ストラクチャーに対応出来るデータを、五洋建設が受け取り、施工のベースとした。なお、ソフト間のデータ交換は、ARUP が自社開発したものを使用。意匠と設備は二次元データだった為、両方のデータを読み込める
HICAD で情報を統合した。ざっくりと書いたが、著者もこれらのソフトの一部を使う為、涙が出る様な努力と工夫があった事は容易に想像出来る。施工では鉄骨の上に仕上げ、断熱、防水部材が乗っかる為に荷重が増すため、構造の形状を変え、足場がかけられない場所では、俗にスパイダーマンと呼ばれる窓清掃をする作業員が 活 躍した。構造体の鉄骨はBIMのデータを元にCNCで精密に切断され複雑な躯体を作った。

 

著者プロフィール

 

藤堂 高直(とうどう・たかなお)
1983年東京生まれ。15歳の時の渡英する。
2008年にロンドンの名門建築大学AAスクールを卒業。
同年に英国王立建築協会パート2資格を取得。卒業後はロンドン、ミュンヘン、パリ、東京と建築設計に携わる。
2012年に渡星、現在はDPアーキテクツに所属。スペインのログロニョで行われた設計競技に優勝。シンガポールでこれまでに手掛けてきたのは、ゲンティン・ホテルやオーチャード・ロードのインターナショナルビル改装など。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.343(2019年3月1日発行)」に掲載されたものです。

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