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シンガポール星層解明

2017年12月25日

シンガポール発ASEAN 物流・運輸 覇権競争

2040年を目途に「超巨大港」が完成
最新技術を駆使した世界随一のハブ港へ

図1の通り、シンガポール港はASEAN域内で断トツのコンテナ本数を取り扱う積み替えのハブ港として発展してきた。その背景には、恵まれた地理的要因に加えて、コスト優遇政策や積極的な設備投資による港湾業務の効率化によって利用する船会社に支持されてきたことが挙げられる。しかし域内でハブ港をめぐる競争は激しさを増しており、シンガポールもあぐらをかいてはいられない。

 

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実際に、2000年にシンガポールから目と鼻の先に開港したマレーシアのタンジュンペラパス港には、世界最大の海運会社であるデンマークのマースクや台湾のエバーグリーンが域内の積み替え拠点の一部をシンガポール港から移している。また、インドネシアのタンジュンプリオク港では、港湾サービスの改善によって競争力を強化、現在は国内各地の港に出入国する国際貨物をシンガポールやマレーシアで積み替えているが、今後はタンジュンプリオク港で積み替えることで、2020年には現在の2倍以上となる年間1,500万TEU(20フィートコンテナ換算)まで取扱量を引き上げる計画を公表している。

 

このような状況の中、現在シティとパシルパンジャンの2つのエリアに分かれているシンガポール港は、将来的にトゥアスに移転することが決定している。2021年には部分的に開業する予定であり、2040年頃に移転が完了する際には、年間6,500万TEUと現在の2倍以上の取扱量を誇り、クレーン操作や港内のコンテナ輸送も自動化された最先端の超巨大港が誕生する計画である。

 

またコンテナ船のみならず、2017年にはアジア初のプレミアム客船と呼ばれる「ゲンティン ドリーム」がシンガポールのマリーナベイ旅客ターミナルを母港として定期運航を開始しており、市場拡大が見込まれるクルーズ船においても、シンガポールのハブ港としての地位は盤石なものになるとみる。

2030年を目途に「超巨大空港」が完成
チャンギは世界最大規模の国際空港へ

海運業界においてシンガポール港の規模がASEAN域内で抜きんでている状況に対し、図2の通り、空運業界においてチャンギ国際空港の旅客数は、インドネシアのスカルノハッタ国際空港、タイのスワンナプーム空港、そしてマレーシアのクアラルンプール国際空港に肉薄している。しかしながら、人口わずか550万人の小国で国内線が就航していない点を考慮すると、チャンギ国際空港の健闘ぶりには目を見張るものがある。今後も域内のハブ空港としての地位を強化すべく、シンガポールに出入国する観光客やビジネス客のみならず、全体の旅客数の約3割を占めると言われるトランジット(乗り継ぎ)客の利用促進を官民一体で図っている。

 

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その一環として、SIAグループ(シンガポール航空、シルクエア、スクート)は、新規路線の開設や機内サービスの刷新を絶え間なく続けている。また政府とチャンギ・エアポート・グループは、超長期的な視点でキャパシティの拡大を図っている。チャンギ国際空港は、2017年に年間1,600万人の旅客収容能力を誇る第4ターミナルを開業し、全体で8,200万人の処理能力を持つに至っている。しかし、既に第5ターミナルの建設も開始しており、2030年頃に完成した際は、全体の処理能力が年間1億5,000万人と、現在世界最大の空港である米国のアトランタ国際空港の旅客数(年間1億425万人)をも超える超巨大空港が完成する予定である。

 

さて、これまで見てきた通り、ASEANの物流・運輸業界、中でも海運と空運においてシンガポールは今後も圧倒的な地位を占め続けることになると予測している。その背景には、過去に構築した競争力に満足することなく、その競争力を維持および一層強化していくためには国を挙げた集中投資を惜しまないシンガポール政府の危機意識、先見の明、そして運営力が挙げられる。かつてはアジアのハブ機能を有していた日本の港や空港が、他国にその機能を奪われる結果になった一因は、まさに国の成長力の根幹であるこれらのスキルが欠如していた点が大きいと考える。シンガポールがいかにしてASEANそして世界のハブ機能を維持・構築していくのか、日本とも比較をしながら、今後も興味を持ってみていきたい。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.329(2018年1月1日発行)」に掲載されたものです。

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