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シンガポール星層解明

2017年12月25日

シンガポール発ASEAN 物流・運輸 覇権競争

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空運・陸運の連携を強化、ASEAN運輸相会議(2017年10月16日)
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2017年に設立50年の節目を迎えたASEANに対して、日本は今後も「質の高いインフラ」の整備など、協力関係を強化していくことを表明している。ASEANがより統合された共同体として機能していく上で、特に物流分野の整備は不可欠と言える。そのような中、2017年はシンガポールとマレーシアにそれぞれネット小売大手のラザダ、アリババ集団の新物流拠点が新設されるなど、各国は外資にも頼りながら物流ハブの覇権を競っている。本稿では、域内の物流・運輸の概況および2018年以降に予定されている整備計画を、シンガポールを中心に陸・海・空の切り口から俯瞰していきたい。

 

域内の移動は日本国内と同感覚
2018年はシンガポールが議長国

1967年に域内の経済成長、社会・文化の発展、政治の安定などを目的としてインドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシアの5ヵ国によって設立されたASEAN(東南アジア諸国連合)は、1984年にブルネイ、1995年にベトナム、1997年にラオスとミャンマー、1999年にカンボジアが加盟して東南アジア10ヵ国の地域協力機構となった。また2015年には、これら10ヵ国が域内の貿易自由化や市場統合などを通じて成長加速を目指す広域経済連携の枠組みであるAEC(ASEAN経済共同体)が発足している。域内人口は約6億4,000万人とEU(欧州連合)を上回り、域内の10ヵ国を「1ヵ国」とみなした際の名目GDPは世界7位の規模となるASEANは、より統合された共同体を指向しながら2017年に設立50年を迎えた。

 

筆者の場合、2017年は日帰りの出張で域内各地に足を運ぶ機会が多かったのだが、その度に、移動に要する時間とコストの観点からは、ASEANは既に一つの経済圏として機能しているとの思いを深めた。すなわち、シンガポールから日帰りで訪れたホーチミン(片道2時間5分)、ジャカルタ(1時間50分)、クアラルンプール(1時間)へは、例えば飛行機で東京から福岡(2時間)、札幌(1時間30分)、大阪(1時間15分)に行くのと同じ時間感覚で訪問できる。またコストについても、シンガポール航空など各国のフラッグ・キャリアに加えて複数のLCC(格安航空会社)間で価格競争が激化していることもあり、日本国内の移動に比べて割安と言える。

 

さて2018年は、シンガポールがASEANの議長国を務めることになっており、担当するリム・フンキャン通商産業大臣は、ネット小売などのデジタル経済や貿易促進に優先的に取り組んでいく方針を示している。これらの施策に欠かせないのが「物流」であり、域内の経済や社会がさらに一体化する上で、各国の物流インフラや域内を横断する物流網の整備が重要であることは言うまでもない。

 

越境の陸運物流網の整備は加速
物流企業は買収・資本提携で事業拡大

ASEAN域内では、既に96%の品目において関税撤廃を達成しており、さらに2018年には自動車関税やメコン地域後発4ヵ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の関税の撤廃も予定されていることから、「単一の生産拠点」や「単一の消費市場」の実現に向けて国境をまたぐ物の流れが増大していくと予測される。それに呼応する形で、海運に比べて短いリードタイム、また空運に比べて低いコストで輸送が可能な陸運の物流網の整備が加速しており、2018年にはタイとミャンマーおよびラオスを結ぶ橋梁や、ベトナムとカンボジアを結ぶ高速道路などが着工・完成する予定である。

 

また陸運サービスを提供する域内外の物流企業は、自社で一貫した越境輸送を実現するために各国企業の買収や資本提携を通じて事業拡大を図っている。一例として、2016年には、日本で宅急便を展開するヤマトホールディングスがシンガポールから中国に至る幹線輸送網を持つマレーシアのOTLグループを子会社化し、また福山通運はマレーシアとタイ間の越境陸運に特化したマレーシアのEHウタラ・ホールディングスの株式49%を取得している。

 

また物の輸送にとどまらず、2026年に開業予定のシンガポールとクアラルンプールを約90分で結ぶ高速鉄道に関しては、2017年に駅予定地などの土地収用手続きが開始されており、2018年内には車両のデザインや鉄道建設などを担う事業者が選定された上で着工が予定されている。

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