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2017年11月24日

訪日需要を踏まえたシンガポール向け食品輸出戦略の再考

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新ジャンルに注目。第6回 日本食品総合見本市「Food Japan 2017」開催(2017年10月29日)
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10月後半にシンガポールで開催された日本食品総合見本市「Food Japan 2017」には38都道府県から283社が出展し、活発な商談も散見された。一方、連続で出展する参加者の間では前回以降から大きな進捗が見られないケースも目立った。また、日本産食材を輸入販売する日系小売業者が当地への進出から1年も経たずに撤退するなど、シンガポールで日本食関連の事業を軌道に乗せるのは容易でないことも事実である。本稿では、「なぜ海外か?」「なぜシンガポールか?」という基本的な問いが示唆する点にも目を向け、日本の食品事業者が成功する秘訣を考察していきたい。

 

海外市場の成長余地は明らか
海外展開の是非と時機は千差万別

「Food Japan 2017」の出展者に海外展開の背景を尋ねると、国内市場の低迷や価格競争の激化が挙がるケースが目立つ。実際に農林水産省は、国内市場は少子高齢化などにより縮小する見込みである一方、世界的な日本食ブームや経済発展に伴う富裕層の増加や人口の増加などにより、海外市場には伸びしろが存在するとしている。また、新たな販路拡大につながる輸出を行うことで、所得の向上、国内価格下落に対するリスク軽減が図られ、地域経済の活性化が期待されるとの見解を示している。

 

農林水産物や食品の輸出促進に関する上述の背景および意義は、日本の国内市場全体に対しては的を射ているが、千差万別の経営状況にある個々の食品事業者の海外展開の是非を合理的に説明するものではない点には留意する必要がある。すなわち、国内で打つべき手を打った上で満を持して海外に展開する食品事業者がある一方で、国内における成長潜在力の実現を一顧だにすることなく、必ずしも機が熟したとは言えない状況で海外展開に旗を振る事業者も少なからずいるのではないだろうか、ということである。以下では具体的な商品の事例を4つほど挙げて、今後海外展開を試みる食品事業者が一考に値する含意を汲み取っていきたい。

 

海外展開は訪日需要の取り込みから
競争力で劣る商品の海外展開は困難

チョコレート菓子「ブラックサンダー」を販売する有楽製菓。もともとはウエハースの製造からスタートした菓子メーカーは、1994年に現在の看板商品となる「ブラックサンダー」の販売を開始するものの、約10年は売れなかったという。しかし大学生協というニッチな販路を足掛かりに販売網を拡大。2008年の北京五輪で日本人メダリストが「大好物」と発言して話題となる後押しもあり、一気に販売量を増加させた。さらには訪日観光客の間で定番となった「白いブラックサンダー」を筆頭に、今年の夏には日本マクドナルドとコラボをして「マックフルーリー ブラックサンダー」を販売するなど、ユニークなマーケティングと商品開発の勢いは衰えを見せない。加えて、以前はコンビニへの個包装商品の販売が中心であったが、現在はスーパーマーケット向けに大袋商品を導入するなど販売チャネルの多角化にも成功。直近6年ほどで売上高は約3倍にも伸びており、2015年には100億円の大台に乗せている。海外展開については、訪日観光客への認知が高まったことを背景に数年前から開始しており、海外売上高を全体の1割まで高めることを目標に、現在では台湾、タイ、アメリカに輸出している。

 

「ブラックサンダー」のみならず、種類豊富なフレーバーやプレミアム商品といった日本独自の戦略を通じて、国内消費者はもとより、訪日観光客からも好評を得て韓国への輸出が開始された日本ネスレの「キットカット」や、国内でヒット商品に育ち、訪日観光客からのお土産需要を背景に越境ECによる中国への輸出が始まったカルビーの「フルグラ」、また海外展開の前に販売の中心であった地元の山口県から東京への進出でノウハウを獲得したことが海外展開の成功要因とされる旭酒造の「獺祭」にも、食品事業者が海外展開の時機を探る上で参考にすべきヒントが含まれている。

 

さて、図1にこれらの商品の位置づけを異なる消費者属性への販売多寡を軸にして例示的に示した。4つの商品はやや極端な事例ではあるが、知名度の高い加工食品に限らず、さまざまな品目や規模の食品事業者が海外展開に挑む前に、国内でさらなる販路の開拓や訪日観光客の需要を取り込む必要性を暗示している。

 

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国内市場の縮小や競争激化を理由に、今すぐにでも海外に打って出たい食品事業者の心情は、理解できなくもない。しかし、その前にまずは、語学面でのハンディや商習慣の不一致もない国内で商品の競争力を強化して販売機会の最大化を目指すべきであり、それが結果的に海外進出の際の成功確率を高めることになるのではないだろうか。逆に国内で競争力に欠ける商品が海外で成功するのは、一般的には困難である。仮に海外進出したとしても、もくろんだ高価格帯での販売ではなく、低価格で訴求せざるを得ない収益性の低い事業になってしまうことが関の山ではないだろうか。

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