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シンガポール星層解明

2018年1月26日

渋谷化の試みで露呈する オーチャード再生の憂い

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オーチャード・ロード再活性化、基本計画策定でビジネス調査を入札に(2017年12月15日)
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シンガポールを代表するショッピングエリアであるオーチャード通りが大変革の岐路に立っている。消費者の購買行動や競争環境の変化を映して相対的な地位が低下傾向にあることを背景に、都市再開発庁と政府観光局は昨年12月の共同声明において、「オーチャード再生の青写真」を策定し、今後15年から20年の間にオーチャードを再開発していく計画を表明している。本稿では、オーチャードで試験的な導入が進むスクランブル交差点や、その見本となった東京・渋谷で進行中の再開発の要点にも触れながら、オーチャードが抱える本質的な課題と真の再生に向けたヒントを考察していきたい。

 

止まらぬオーチャードの地盤沈下
背景には多様化する消費者の選択肢

オーチャード通り(以下、オーチャード)が往年の輝きを失いつつある背景には、郊外のショッピングモールやネット小売が普及したことなどにより、「シンガポールの銀座」とも称される全長2.2キロの目抜き通りに足を運んで買い物をする消費者が減少していることがまず考えられる。実際に図1に示す通り、過去4年の間に島内の小売スペースの総面積は約6%増加しているが、オーチャードでは2009年にアイオン・オーチャード、オーチャード・セントラル、313@サマセット、そして2014年にオーチャード・ゲートウェイがオープンして以降は大型商業施設が登場していないことから、この増加分の大半は郊外を中心に、オーチャード以外のエリアに開業した商業施設に属していると推測できる。また参考までに、例えば2009年にシンガポール市場に進出したユニクロは、現在当地で25店舗を展開しているが、オーチャードには2009年に出店したアイオン・オーチャード(シンガポール2号店)と313@サマセット(同3号店。2016年に隣接するオーチャード・セントラルにグローバル旗艦店が開店したことに伴い閉店)、そして2012年に出店したプラザ・シンガプーラ(同8号店)の3店舗のみと、進出当初こそはオーチャードへの集中的な出店が目立ったものの、残りの22店舗は郊外のショッピングモールを含む島内各地に点在している。

 

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また実店舗からネット小売へのシフトは世界的に加速している小売業界のメガトレンドと言えるが、シンガポールではアパレルやフットウエアのカテゴリがネット小売市場で占める割合が日本に比べても高く、海外からオンラインで購入する購買行動も珍しくない。そのせいもあってか、ファッション関連の店舗が集積し、また賃料も割高なオーチャードエリアにおける小売スペースの空室率は、市中心部以外のエリアに比べて高い傾向にある。

 

その他にも、2010年の開業後もテナントの入れ替えなどで集客アップに余念がないマリーナベイ・サンズの存在や、シンガポール居住者による航空便利用の海外渡航が2010年から2016年の間には38%も増加したことに伴って海外で物品を購入する機会が増えたことなど、消費者の選択肢の多様化がオーチャードに与えている影響は想像に難くない。

 

ホコ天と地場産品振興が現施策の中心
抜本的な変革なくして真の再生はなし

さて、オーチャードでは前述した「青写真」の策定を待たずして、既にさまざまな施策が導入されている。

 

昨年12月16日から今年1月28日までは、オーチャード通りとケーンヒル通りの交差点に「渋谷スタイル」のスクランブル交差点を試験的に導入しており、歩行環境の改善が見られた場合には他の交差点にも広げる計画だという。例えば、アイオン・オーチャードから向かいのタングスやウィーロック・プレイス、ショー・ハウスといった商業施設に行く際は地下道を経由しなければならず、また、例えばニー・アン・シティ(高島屋)に比べてラッキー・プラザ前の歩道は狭小であるなど、car-lite(脱クルマ)社会の実現を目指すシンガポールにしてオーチャード周辺の歩行者や自転車の利用者に対する動線・空間の設計には、改善の必要性を認めざるを得ない。

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