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座談会

2017年3月30日

1月からEPの発行厳格化、どうなる?シンガポールの日系企業

カテゴリー:人事

AsiaX:人材省(MOM)がEP発行基準となる基本月給の最低額を引き上げるのは2014年1月以来になります。今回MOMが新基準を適用する背景について教えてください。

 

丸茂:シンガポール政府は2010年以降、自国民の雇用を確保することなどを目的に、外国人に対するビザの発行を抑制するようになりました。外国人労働者は、シンガポール人にはない高度な技術・知識を持つ人材を確保するために受け入れる、という考え方で、EPの審査にあたっては申請者の学歴や職歴、給与水準などが考慮されています。
またMOMが最低給与額を引き上げる理由については、外国人労働者の質を維持するとともに、シンガポール人の給与水準の上昇に合わせることが目的とされています。

 

AsiaX:今回の新基準の適用により、企業側の人件費負担はより大きなものになり、中には駐在員の人数を減らした企業もあるようです。実際に、企業側からはどのような反応が見られますか。

 

永見:昨年に新基準が発表されてから、EP取得に関する問い合せは増えています。またEP関連のセミナーを企画したところ、30~40人の枠が30分で埋まってしまうなど、シンガポールの日系企業からの関心の高さは相当なものですね。
320web_IMG_4292EP取得のための最低給与額はこれまでも上がってきましたが、今回の上げ幅は一段と大きく、2,000Sドル以上月給を引き上げなければならなくなるケースもあり、企業への影響も大きなものになります。また日系、外資系企業ともに、人員確保・獲得への影響は大きいと感じていらっしゃるように思います。
現時点では、シンガポールで仕事を探す人の数が減り、企業の日本人採用ニーズが低下しているという実感はあまりありません。ただし今年の7月くらいから、EPの更新ができなくなるケースが増え、徐々に影響が出てくるのではないかと見ています。また今後は、Sパス(注1)やDPの審査基準も変更になる可能性もゼロではないため、注視していく必要があるでしょう。

注1:2004年から導入された就労ビザで、取得のための最低給与額は月額2,200SドルとEPに比べ低い。4年制大学を卒業していない、または管理・専門職以外の場合、Sパスを取得して就労することが多い。シンガポール人の雇用人数に応じて、企業ごとにSパスの発行数が決まる仕組みになっている。

小林:日本人の採用ニーズの高い営業や総務職、秘書職などの場合、これまで月額4,000~4,500SドルでEPを取得できていたのが、4,500~5,000Sドルといった具合にレンジが上がりました。年齢とともに最低給与額は上がっていきますので、30歳以下の人材の採用を強化する日系企業が増えているようです。特に、有名大学の新卒または20代の採用ニーズが高く、日本で実務経験があって即戦力になる30代のニーズが若手に移行する傾向にあると思います。
新基準は、シンガポール人を多く雇用しSパスを使える比較的大きな企業にはあまり影響しませんが、シンガポールにある日系企業の8割は人数が少なく、Sパスの枠もないことが多いのが現状です。新基準の適用で大きな影響を受けることになります。

 

北川:当社は新基準が発表されたとき、日系企業を対象に今後の人事戦略についてアンケートを行いました。有効回答を得られた約50社のうち、現地採用の日本人に対して、EPを取得するためならいくらでも給料を上げると答えたのは約10社にとどまり、約20社は日本語が話せるシンガポール人に採用を切り替える、または日本語を使わなくても業務をこなせるようにする方針と回答しました。後の20社は、予算内での採用にとどめると答えています。
これから短期的には、人材マーケットの混乱が予想されます。現地採用の日本人がいなければ業務に支障が出るような企業では、20代の若手にいきなり月給5,000Sドルを支払う企業も出てくるでしょう。そういった事例を見て「不公平だ、私も転職する」と思う人もいると思います。またEP取得者の給与だけを引き上げれば、当然ながらシンガポール人やDP・PR保有者から不満の声も出てきます。
ただこういった混乱は一時的なもので、やがてシンガポールにおける日本人の給与相場は上がっていくと思います。

 

320web_IMG_4287丸茂:2011年頃、EPを取得するための最低給与額は約2,500Sドルと、現在を大幅に下回っていましたが、年々増加していますね。
今回の新基準の適用により、日系企業は嫌でも職務に合わせた給与体系を導入していかざるを得なくなるでしょうね。金銭的な面だけでなく、雇用や働き方をめぐる文化の問題にもなってくると思います。
また新基準を見ると、日本で偏差値の高い大学を卒業した人の基準額のほうが、高校や専門学校を卒業した人より低いというのも興味深いです。

 

下垣内:高校や専門学校を卒業した人を採用するなら、専門性やマネジメントスキルなど、新基準に見合う人材を連れてきてほしい、というのがシンガポール政府の考え方なのでしょう。
新基準に合わせて、社内の賃金制度を見直す企業もあるかと思いますが、「日本人だから」「日本語が話せるから」という理由だけで賃金を上げるのでは、現地社員からの理解は得られません。これまでは、外資系企業より比較的低い賃金で人材を採用し、育成していくというスタンスの日本企業が多くありました。今後は、この業務・役割に対してこの金額を払うべきという、日本以外では当たり前の職務給について、真面目に考える良いきっかけになるのではないでしょうか。
これはシンガポールに限った話ではなく、グローバル全体でそういう流れになっていると思います。この流れに対応できなければ、日系企業だけが取り残されてしまうのではないか、とも感じています。

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