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星・見聞録

2016年10月17日

アジアで活発化する高速鉄道計画の現状

今年7月、シンガポールとクアラルンプールを結ぶ高速鉄道の建設計画について両国が覚書を締結するなど、アジアの国々では複数の高速鉄道プロジェクトが進展を見せている。また日本政府が掲げる成長戦略には、インフラ輸出の拡大が盛り込まれており、安倍首相自らが海外でトップセールスを行うなど日本の新幹線システムの売り込みに力を入れている。こうした中、各国企業の動向や日本企業が海外で受注を増やしていくための課題は何なのか、各プロジェクトの展望とともに考察してみたい。

 

1.アジアでは国をまたぐプロジェクトも

312web_shinkenbunroku_chart1国際鉄道連合(UIC)の資料によると、アジアで計画中の時速250キロメートル以上の鉄道プロジェクトは2014年時点で6,258キロメートルと、すでに世界の過半を占める。運行中、計画中のものを合わせると、2025年には3万キロメートル超に達する見通しだ。

 

現在はタイやインドネシア、インド、ベトナムで計画が持ち上がっている。国をまたぐプロジェクトも活発化が予想され、シンガポール~クアラルンプール間以外では、2015年12月に中国の昆明とラオスのビエンチャンを結ぶ高速鉄道の定礎式が行われたほか、今年9月にはマレーシアとタイを結ぶ高速鉄道計画の建設について、両国政府が調査することで合意している。

 

アジアにおける今後の高速鉄道のニーズについて、三菱総合研究所の林保順氏はこう指摘する。「経済成長による中間層の増加に伴い、今後も長距離移動に関するさまざまなニーズが出てくると思われます。高速鉄道は早くて安全性、快適性に優れており、今後も導入に対するニーズが増えるでしょう」。

 

一方で、みずほ総合研究所コンサルティング部主席コンサルタントの宮澤元氏の見方は慎重だ。「アジアの各国が高速鉄道を計画する背景には、自国がこれだけ発展しているのだということを示す目的もあると思います。ただし、実際には採算が合う案件は少なく、着工が実現しないプロジェクトも出てくるのではないでしょうか。また日本のように、人口が一定以上ある大都市間の200~300キロメートルを鉄道で効率的に結ぶことができれば良いですが、実際にはアジアにそのような国はあまりありません。タイを見ても、バンコク以外で人口が数百万人規模の都市は少ないのです」。本当にプロジェクトが動くのか、現地政府などの動きにも注視する必要がありそうだ。

 

台頭する中国企業
これまでの日本勢の実績を見ると、新幹線が初めて海外で採用されたのは、2007年に開業した台湾高速鉄道。これは北部にある首都の台北と、南部の高雄を結ぶ約350キロメートルの高速鉄道で、日本の700系新幹線をカスタマイズした700T型車両が使われている。このほか、タイのバンコク〜チェンマイ間と、インドのムンバイ〜アーメダバード間では、すでに日本の新幹線方式の採用が決まっている。

 

日本企業はシンガポール~クアラルンプール間のプロジェクトにも強い関心を示しており、今年7月にシンガポールで開催された「The 2nd High Speed Rail Symposium in Singapore(第2回新幹線シンポジウム・イン・シンガポール)」では、石井啓一国土交通相がジョセフィーヌ・テオ上級国務相と会談、新幹線技術の利点を紹介した。

 

一方で、今後は海外勢との厳しい競争も予想される。中でも勢いを伸ばしているのが低価格を売りにする中国企業で、シンガポール~クアラルンプール間のプロジェクトにも強い関心を寄せているという。中国企業の動向について宮澤氏はこう話す。「鉄道車両だけ見ると、中国企業である中国中車のシェアはすでに世界トップです。また日本やドイツ企業の技術を取り入れており、技術的に全く日本企業に太刀打ちできないわけではありません。もはや技術面で、日本企業が圧倒的に有利とは言えない状況だと思います」。海外鉄道技術協力協会の資料を見ても、2014年の中国国内外における中国メーカーの売上高は3兆円超。海外向けは7%にとどまっているものの、全体の売上高はカナダのボンバルディア、ドイツのシーメンス、フランスのアルストムの「ビッグ3」や日本勢を上回っている。

 

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