2016年10月17日
アジアで活発化する高速鉄道計画の現状
注目を集めるシンガポール~クアラルンプールの高速鉄道計画について、シンガポールの識者はどう見ているのだろうか。南洋工科大学S・ラジャラトナム国際問題研究大学院のアラン・チョン准教授と、リサーチフェローのフー・シャン・スー氏にプロジェクトの経済効果や展望について聞いた。
―シンガポール~クアラルンプール間の高速鉄道の重要性や経済効果について、ご意見をお聞かせ下さい。
チョン氏:このプロジェクトでは、建設工事やメンテナンスだけでなく、沿線でのショッピングセンターや駐車場、物流施設、さらには映画館といった娯楽施設などの建設も見込まれます。それらの施設向けに雇用も生まれるため、経済的な波及効果が大きなプロジェクトといえるでしょう。またシンガポールからクアラルンプール間での通勤もしやすくなるため、シンガポール企業がマレーシア人を雇用する、またその逆もより容易になります。
フー氏:シンガポールとクアラルンプール間では航空便も多いですが、空港が中心部から少し離れています。空港から市街地まで移動する時間などを考えると、高速鉄道を利用することでより短時間での移動が可能になります。
―高速鉄道の料金設定のあり方についてどのようにお考えでしょうか。
フー氏:シンガポールからクアラルンプール間の場合、飛行機より少し低めに設定することで、価格競争力を発揮できるようになると思います。
またこのプロジェクトの主な収入源は、シンガポール~ジョホール間の通勤客によるものになるでしょう。現在のマレー鉄道(KTM:Keretapi Tanah Melayu)の運賃は、シンガポールからジョホール間で5Sドルほどになりますが、高速鉄道の場合、採算性を考えると10Sドル以上になるのではないでしょうか。
―建設工事の入札の見通しについてどうご覧になっていますか。
チョン氏:地政学の面で言うと、中国とアセアンの間では南シナ海の領有権をめぐる問題を抱えており、プロジェクトの受注にも影響する可能性があります。その点日本は、アセアンとの間で大きな政治的問題を抱えておらず、シンガポールやマレーシアとの経済的な結びつきも強いことも利点になりえます。
―バンコク~クアラルンプール間でも高速鉄道の計画が持ち上がっています。シンガポール~クアラルンプール間の高速鉄道と接続するプランもあるようですが、実現可能性についてどうお考えでしょうか。
フー氏:シンガポールとバンコクを結ぶ計画には現実性があると思います。どちらも東南アジアの大都市であり、移動も盛んだからです。バンコクも市街地から空港まで離れており、移動に時間がかかるのが現状です。飛行機よりも短時間で移動できるよう、入出国の手続きについて3国で協力しながらプロジェクトを進めていくことが必要です。
また各国の産業はアセアン経済との結びつきも強く、貨物の運搬に活用できるという意味でもこの路線の建設には意義があるでしょう。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.312(2016年10月17日発行)」に掲載されたものです。
取材=佐伯 英良