シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『いのちの初夜』北條民雄

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2004年12月6日

『いのちの初夜』北條民雄

photo-17何も知らなかった。知ろうともしなかった。そんな自分が嫌になる。

何年前になるのだろうか。ハンセン病裁判が話題になったことがある。その時は、「苦労した人たちがいたのだな」と思った程度だった。しかし、彼らが経験したのは「苦労」なんて生やさしいものではなかった。「重苦」とでも言えばいいのだろうか、適切な表現すら思い浮かばない。

かつては「癩病」と忌み嫌われた病気がある。それがハンセン病だった。以前は徹底した隔離政策が実施され、人が人として生きることを否定されていたことに嫌悪を感じた。そして、その時代に生きていれば、やはり同じ行為を行ったであろうにちがいない自分を軽蔑した。今までも強いと思ったことはないが、自分を弱く愚かだと思う。一方で、自分とは異なる尊い人たちがいることを知り安堵した。

「生きる」ということを考えさせられると共に、恐怖を感じた。もし自分がその時代に病気を患っていたりしたらどうなったのだろうかと考えると、恥ずかしながら健康でいることを感謝してしまう。

本書はハンセン病を患い、人生を駆け足で生きた青年の作品であり、文字通り彼が生きた証と言える作品である。「生命だけがびくびくと生きているのです」というような、その生々しい表現に衝撃を受けると同時に、恐怖すら感じた自分が情けない。

 

角川文庫

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.023(2004年12月06日発行)」に掲載されたものです。
文=親松

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