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2005年7月25日

『古道具中野商店』川上弘美

photo「いい小説を読んだ」という気持ちのいい読後感が味わえる小説である。舞台は東京郊外の古道具屋。この店では、おしゃれアンティークではなく、引越しの際にでる不用品を引きとって売っている。扇風機やちゃぶ台といった実用的なものだ。中野商店の「中野」は店主の名だが、おそらく中央線の中野にもかかっていると思われるような雰囲気がある。街中だけど色気がなくちょっと陰気くさいイメージ。そんな世界でアルバイトの主人公は同僚と不器用な恋をし、50歳を超えて3度目の結婚をしている店主は不倫中だ。その相手は、趣味で官能小説を書いているという変わった同業の女性。そして、その店主の姉もいい年をして昔の男とよりを戻し熱烈な恋をしている。どれをとっても、人間くさい大人の恋で、古道具屋のかびくさい空気と対照的なところが面白い。どこにでもありそうな話ではあるけれど、作者の美しい筆致により、とても上質な小説になっている。読書の楽しみを再発見させてくれる一冊。

 

新潮社

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.054(2005年07月25日発行)」に掲載されたものです。
文=親松

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