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2020年1月29日

報道などに見る新型コロナウイルス感染症への感染対策

 2019年12月から中国武漢市で始まった新型コロナウイルス感染症は、またたく間に世界中に拡散しています。2020年1月29日の時点で全世界に6,051名の感染者がみられ、そのうち132名は死亡者で、シンガポールでは7名の感染者が確認されています。
 
 シンガポールでは2003年のSARSコロナウイルス感染症流行期間に238名もの感染者が発生した経験から、厳しい対策がとられています。
 最新の動向6点とそれに関する感染対策のポイントについてまとめてみました(1月29日現在)。
 

1.シンガポールは中国湖北省からの渡航者の入国を全面禁止(1月29日から有効)

 シンガポール国内での感染確認者が今のところすべて武漢からの旅行者であるので、やむを得ないかもしれません。感染源に近づかないこと=中国への渡航制限と、感染源を入れないこと=今回の入国制限は、政府レベルで行う対策としては、今後の感染拡大を防ぐのにある程度役立つでしょう。
 もちろん、すでに感染者が出ている以上、個人レベルでの対策、マスク・手洗い・咳エチケットの励行も重要です。
 

2.日本で中国渡航歴のない日本人バス運転手への感染が確認された(1月28日 厚労省発表)

 当初、新型コロナウイルスは人間の間で直接感染しないだろうと言われて来ました。医療従事者には患者さんからの感染が起こっていないと中国政府が発表してきたからです。事実、そういう性質をもつ病原体は他にも存在します。しかし今回の日本の事案では、ある程度閉鎖されたバスという空間において、8日〜11日に中国・武漢市から来たツアー客を、大阪から東京方面の空港まで乗せた。その後、12〜16日に別の武漢からのツアー客を、東京から大阪まで乗せたという。長時間、感染者である中国人旅行者を乗せたバスの運転手に感染が起きています。発病した運転手は中国への渡航歴はありませんでしたので、新型ウイルスがヒトからヒトへの感染を起こす証拠の1つと考えられます。また、飛沫感染あるいは接触感染による感染と推測されています。
 

3.政府発表では、シンガポールにはマスクは十分ある(Lam保健大臣談、 Straits Times 1月28日報道)

 新聞記事を見る限り、一部の大手量販店の倉庫には大量のマスクの在庫があるようです(ただドラッグストアのマスクの在庫は急激に減っています)。マスクは飛沫感染予防に効果的ですので、政府もその在庫を気にしているようです。飛沫感染は咳・くしゃみで飛ぶ飛沫(しぶき)にウイルスが含まれていて、それを吸い込んだ人に起きる感染です。咳の飛沫は2メートル程度しか空気中を飛ばず、その後は地面に落ちてしまいます。マスクは、健常者においては近い距離で発生した飛沫の吸い込みを防ぐものです。咳のある人においては飛沫の飛び散りを減少させるものです。マスクの種類は通常の生活ではサージカルマスクと呼ばれるものの使用がいいでしょう。ちなみに色がついている場合、その面を外側にして装着します。健康な人はマスクを長時間つけている必要はなく、人ごみに入るときなど状況を選んで使用しましょう。
 医療機関などで濃厚に感染者と接する場合には、N95と呼ばれる性能の高いマスクを使用します。なお咳が出ている患者さんがN95マスクをすると、わずかな隙間から勢いよく飛沫が噴出することがあるので、感染を広げることになりかねません。
 

4.シンガポール保健省(MOH)は咳エチケットを勧めている(MOHのホームページ)

 マスクがない場合、咳をするときは口と鼻をテッシュペーパーなどでカバーして、周囲に飛沫を飛ばさないようにしましょう。これは咳エチケットと呼ばれる対策です。このとき使ったティシュはすぐにごみ箱などに捨てましょう。MOHのホームページでは記載していないようですが、世界保健機構(WHO)ではティシュがないときは手でなく、肘で口元をカバーするよう勧めています。手を使うと、その手でそのあとにどこかに触ることで接触感染を広げることがあるからです。
 

5.MOHはせっけんでの頻繁な手洗いを勧めている(MOHのホームページ)

 ウイルスは家具やドアノブなどに付着したとき、しばらくの間、そこで生きています。それを触って手で口や鼻に触れるとウイルスが体内に入って感染がおきます。これが接触感染です。予防には、流水とせっけんによる頻繁な手洗いが効果的です。一般の生活を送る健常者にとっては、マスク着用より重要です。また、アルコール系消毒剤で手指や人が多く触れるドアノブなどをきれいにすることも、現時点では有効と考えられています。ただし明らかに目で見える汚れがある場合は、アルコール消毒だけでは不十分ですので、まず、せっけんで汚れを落とす必要があります。
 

6.MOHの発表した、新型コロナウィルス感染を疑う病状(1月25日MOHが医療機関に通達)

 MOHは今回のウイルス感染を疑う病状を、以下の2つの場合と定めています。
 
(1)肺炎など重い呼吸器症状がある人で、発症の前14日以内に中国本土を訪れていた場合。
(2)軽くても急性の呼吸器症状がある人で、発症前14日以内にリスクの高い場所にいた場合。
(具体的には、中国武漢市または湖北省にいた。中国本土の病院を訪れた。あるいは新規コロナウイルス感染患者と密接な接触があった場合と書かれています)。
 
 これらに該当する場合は、一般病院でなく指定された専門の医療機関で検査を受けることとなっています。直接一般病院を受診することはせず、疑問があれば医療機関にまず電話で相談してください。なお上記の定義は感染の拡大により今後変更があると思われます。
 

対策案

 1月29日時点ではシンガポール島内での二次感染が報告されていないため、今のところ海外への渡航と帰国者への対応を中心とした対策が考えられます。
 

 

【著】石田 卓
 ジャパングリーンクリニック院長。北海道大学卒業、日本内科学会専門医、日本呼吸器学会専門医、米国胸部疾患学会上級会員。
 福島県立医科大学准教授、同特任教授、上海グリーンクリニック院長などを経て2019年から現職。

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