2016年1月1日
世界の市場で存在感を発揮 シンガポールを鮮やかに彩る国花「ラン」
交配技術の発展と友好の印としてのラン
日本でランと言えば胡蝶蘭に代表されるように、贈答用の高級花という印象がありますが、シンガポールでも交配が主流となる以前は、富裕層の趣味として有名実業家の個人の庭などでのみ鑑賞され楽しまれてきたそうです。当時は珍しいランが咲くと親しい友人たちを招き、自宅の広大な庭でディナーを振る舞いながら満開のランを愛でるなど、一部の熱狂的なファンの間で楽しまれた優雅な趣味でした。
ところが1928年、当時のボタニック・ガーデンの園長、エリック・ホルタム氏が、ランの交配プログラムを始めたことでこの花が一気に身近な存在となります。ランの交配に熱心だったホルタム氏は1939年、ゴールデン・シャワー(Golden Shower、別称ダンシング・レディー Dancing Lady)と呼ばれるランの交配に成功、切り花としてのラン市場が開拓されていきます。これも、ひとえにホルタム氏の熱心な研究の成果だといえるでしょう。
このような新種の交配や切り花市場開拓の成功を受け、シンガポール政府は1957年、シンガポールを訪れた来賓やVIPたちに対し交配させたランを友好の印として贈呈することを決定します。現在まで200人のVIPたちに名前を冠したランをプレゼントしていますが、日本人では今上天皇(明仁天皇陛下)、美智子皇后陛下、雅子皇太子妃などがシンガポールを訪問された際に名前を冠したランが贈られました。また故ダイアナ妃は不慮の事故で亡くなったその年にシンガポールを訪れる予定で、既に名前を冠したランが完成していました。ダイアナ妃がシンガポールを訪れることは叶いませんでしたが、現在も彼女を偲ぶようにボタニック・ガーデン内のシンガポール国立ラン園で美しい花を咲かせています。
現在もインフォメーションセンター「ボタニー・センター(Botany Centre)」のラン繁殖実験室では日々新しい交配種が誕生し、その数はどんどん増え続けています。交配によって誕生したランはボタニック・ガーデンショップで苗木を購入することも可能なので、シンガポールに滞在している間に栽培に挑戦してみるのもいいかもしれません。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.294(2016年1月1日発行)」に掲載されたものです。
取材・写真:藤江 薫子