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熱帯綺羅

2016年1月18日

シンガポールの「ブラック・ゴールド」 人々に愛される1杯のコピ

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「南洋老珈琲」のオーナーで自称コーヒー大使のリムさん。コピへの造詣が深く、チャイナタウンの店に「ミニ・コーヒー博物館」を併設。コピの歴史や文化を次世代に伝えることで、シンガポール人のアイデンティティ形成の一助になればという。

 

シンガポール人がこよなく愛するコーヒーはマレー語で「Kopi(コピ)」と呼ばれ、我々が飲み慣れているものより甘く濃い味わい。街中のフードコートやショッピングモールでも気軽に飲めますが、旧い街並みが残るチャイナタウンやバレスティア地区などの路面店の店先に腰掛けてコピを「すする」のが伝統的な楽しみ方です。

 

シンガポール・コピのこと

ポルトガルやオランダ旧植民地のインドネシアやマレー半島のとの交易を介して19世紀以降にシンガポールへ持ち込まれたのがコピの始まりとされ、人々の生活に浸透したのは1920年代。そのコーヒーの普及に大いに貢献したのが中国・海南島出身の華人たちでした。彼らの多くは、旧植民地支配層の外国人家庭で料理人として働いており、後にそこで習得した技術を活かし、軽食、ケーキやコーヒーを出すコピ・ティアム(コーヒーショップ)を島内のあちこちに開業させました。往時は、主に華人の男性たちが集い、コピを飲みながら故郷の情報を入手したり、仕事を探したりする社交場でした。時を経てコーヒーの多様化は進みましたが、今でも日々コピを楽しむ習慣は人々の中に根強くあります。

 

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コピは、沸騰したお湯が入ったポットに粉末状の豆を入れ、かき混ぜて5分おく。綿のフィルターを装着した別のポットに移し、漉す。高いところから注ぐことでコーヒーがまろやかになる。
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コピの豆は、砂糖とバター(またはマーガリン)を一緒に焙煎するので、色は黒めで照りがある。豆の劣化を防ぐために砂糖でコーティングし、バターが豆の粘着を防ぐ。インドネシアとマレーシアが原産で、ロブスタ、アラビカ、リベリカの3種の豆がある。

コピ・ティアムで外国人が苦労するのが、自分が飲みたいコピを的確に注文すること。マレー語や中国語の方言が混ざった呼び方で注文するので意味がわかりづらいのです。現在、「Kopi」と頼むと砂糖とコンデンスミルク入りのコピになり、濃いめ(Kopi Gao)や薄め(Kopi Poh)、砂糖少なめ(Kopi Siew Dai)という注文もできます。20世紀初頭から保存可能なコンデンスミルク(練乳)やエバミルク(無糖練乳)が流通するようになって、ミルクの種類を選ぶバラエティーが増えました。エバミルク入りの砂糖抜き(Kopi C Kosong)、砂糖入りコンデンスミルク抜き(Kopi O)など組み合わせると100通り以上もパターンがあるのだとか。

 

現在島内に7店舗ある「南洋老珈琲(ナンヤンオールドコーヒー)」のオーナー、リム・エンラムさんは、叔父からコーヒー豆の焙煎工場を引きつぎ、7年前にコピ・ティアム1号店を開店。ほとんど記録のないコピの作り方や歴史を人に聞いたりしながら研究を重ね、往時に愛されたコピの味を再現しました。ノスタルジックながらポップな雰囲気で英語のメニューも完備されている店には、世代や国籍を問わず日々多くの人が訪れます。リムさんは、シンガポールのコピは、マレーシアやインドネシアのそれとは違い、独自の文化が生んだものと断言。味わいもまろやかで、冷めにくくするために分厚く作られたコーヒーカップや、コピの香りを楽しむのに小さなれんげですする飲み方もシンガポール独特のスタイルなのだとか。「世界の人々にシンガポール・コピの美味しさを伝え、世界からシンガポールにコピを飲みに訪れてくれるようになるのが目標です」。

 

バレスティアロードに1959年からあるコーヒー豆販売店「ラムエオ・コーヒーパウダー」では、昔ながらのレシピと手法で焙煎されたコピのコーヒー豆が常時7、8種類あります。3代目のタン・ペックホーさんは、他にもブラジルやケニア産など世界各国のコーヒー豆も取り扱っています。地元の人やコピ・ティアムのオーナー、バレスティア地区を訪れる外国人観光客まで客層は幅広く、それぞれのコーヒーの淹れ方まで聞いて相応しいパウダーや豆を袋に詰めます。以前よりビジネスとしては厳しい部分もありますが、移り変わる時代と人々の嗜好の多様化を受け止めているタンさん。「誰もが好きなコーヒーを選べる時代。コピであれ欧米スタイルであれ、コーヒー豆の買い手がある限り、商品を揃えてニーズに応えられる小売店でありたい」。

 

2人に共通しているのは、コピ好きであることはもちろん、「美味いシンガポール・コピは世界の人たちに楽しんでもらうべきもの」という考え方。リムさんは、つやのあるコピのコーヒー豆を貴重な「ブラック・ゴールド」と呼び、タンさんは「コピはシンガポールの人々の心の拠りどころ」といいます。自分好みの一杯のコピを探しあてることで、シンガポール文化の新たな魅力を発見することになるかもしれません。

 

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ほぼ創業当時のままの「ラムエオ・コーヒーパウダー」。3代目のタンさん(右)はラムエオ(Lam Yeo)をブランドとし、販売するコーヒー豆の種類を増やした。2代目の両親と共に家業を切り盛りする。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.295(2016年1月18日発行)」に掲載されたものです。

取材・写真:桑島 千春

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