2013年7月1日
新種の蘭を育む Toh Garden
異種配合で誕生する個性的な蘭の数々
今や2万種以上とも言われる蘭の中で、根強い人気があるのはデンドロビューム、中でも白地に淡い紫がかったパステル・ピンクの花弁が美しい、ルシアン・ピンク(Lucian Pink)だそうです。“トー・ピンク”と経営者一家の名前でも呼ばれるこの花は日本への出荷数でもダントツです。最近シンガポールでは陽の光が当たると金色に輝く黄色も人気上昇中で、S.G.H.(Singapore General Hospital、病院の名前)やシャングリラと命名された黄色の蘭もよく売れているようです。
このパープル・ピンクと黄色という二大人気カラーを1枚の花弁の中に融合させているのは忍者(Ninja)という名前の花です。もともとタイから運ばれたもので、名前の由来は不明ですが、鮮やかな黄色地の花弁に揺らめく浮き彫りのような紫色が、不思議な存在感を醸し出しています。
ハイブリッドの蘭は数多くありますが、成功例のひとつは、LLPS―Vanda Laennec Liver Pathology Societyという花です。LLPSは次の3種類の蘭の異種配合によって生まれました。①ヴァンダ・テレス(Vanda teres、大振りの白い蘭)、②ヴァンダ・デニソニアナ(Vanda denisoniana、薄黄色のバニラの匂いの蘭)、③ヴァンダ・リラシナ(Vanda lilacina、ピンク・パープルの蘭)。①と②を掛け合わせて生まれた花は、大振りで白くバニラの香りの蘭でした。次にこの花と③を掛け合わせて生まれたのがLLPSで、大振りのうえ、白地にパープル・ピンクの色が刷毛で描かれたように混じり、しかもバニラの香りが漂うという素晴らしい蘭です。祖父母と母親の美貌、サイズ、香りを一身に集め、誇り高く花開きました。
異種配合ではこうしてそれぞれの種類の長所を持ち合わせて生まれるケースが多いのですが、予想通りの成果が得られるとは限りません。しかも新しい種類の蘭が花をつけるまでに1年半から2年、またその花を大量に栽培して出荷する段階までには5年から7年かかります。時間をかけ、世話を焼き、なによりも愛情を注ぐことが必要なのです。
こうして生まれ育った色とりどりの蘭が咲き乱れるトー・ガーデン。そのカラフルで賑やかな光景は、人種の坩堝シンガポールを映す鏡のようでもあります。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.237(2013年07月01日発行)」に掲載されたものです。
文= セガラン郷子
写真=Eugene Chan