2010年3月15日
人の採用と企業へのインパクト
サイコム・ブレインズ(アジア) ジェネラルマネージャー サンディ齊藤 業種:サービス(次世代人材開発と育成・企業内研修・公開講座)
1. 人が「仕事をする」ということ
海外で採用業務をすると、たくさんの国からの候補者に出会え、それぞれがそれぞれの想いや、目標をもって職探しをしていると毎回感じる。その中で、特に「仕事をすることの意義」や「ゴール」をしっかりと語れる候補者に会えた時には、「お?!」っと思うものである。
中国で採用活動をしていた時のこと。大陸の中国人で日系の会社を希望する人は、日本語堪能な人も多く、その時点で彼らのコミットメントに感服する。ある年、10名ほどの候補者に会い、ヒアリングした情報を整理していて、気がついたことがあった。彼らが共通して言い残した言葉「人才(Ren Cai)」。
つまり、「私は才能をもって御社に入社します。ですから、その才能を認めていただきたい。また、会社にさらにいい貢献ができるようにどんどん教育をしていただきたい」できるだけ長く同じ会社で働きたいという思いは中国人にもあるが、同時に、安穏を求めて長くいるつもりはなく、「知識への貪欲さ」「学びたいという気持ち」の強さを感じた。つまり、雇用側から考えると、確固とした「教育システム」「キャリアパス」がないと、優秀な候補者は、「せっかくの自分の『人才』を磨いてもらえない」という理解をし、入社に踏み切らないこともある、と再認識した出来事であった。
また、ヘッドハンターにお願いをしてインドからエンジニアを雇用した際の話。インドにあるITの大学として著名な大学を卒業し、HP、IBMと仕事をしてきたエンジニアに会った時、彼は「シンガポールは私のキャリア人生における第2段階である」と明言した。もちろん、第3段階はアメリカであった。「シンガポールでもインドと同じように、一生懸命仕事をし、人脈を構築し、経験を積む、そして、いずれアメリカにわたる」面接ではっきりと、目をキラキラと輝かせながら、こう明言した。雇用後、彼は確かに必死に仕事をし、誰もが認める優秀なエンジニアであったが、シンガポールで「箔」をつけ、5年後アメリカに颯爽と旅立って行った。
つまり、これらの例は、「キャリアは人生のすべてではない」が、それでも重要な位置を占めるものである以上、明確なゴールが頭の中にあり、そのゴールに向けて日々努力をし、その価値に見合う給与・ベネフィットを会社からいただく、という図式が綺麗にできあがっていることを語っている。
2. マインドセット
しかしながら、ここで若干難しいのが、こういう(優秀な)スタッフをどうまとめていくか、ということになろう。つまり、個々のスタッフは個人個人のキャリア人生における目標に的を絞って会社を探し、そして、自身の更なる成長のために、次の階段を見つけ登ろうとする、こういう人材を日系企業としてどう動機づけ、会社としてまとめていくのか、という課題である。
会社としては、間違いなく「一枚岩」になっていることが大切であるが、そこには、先ほどの例のように個々人の目標や、ゴールも渦巻いている。マネージメント側は、個々人のそれぞれの想いをどう会社のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)と結び付け動機づけるかを真剣に考える必要がある。
ある日系企業の社長で、入社前の面接時に「うちの会社のMVVはこうなっていますが、あなたはこれに納得し、賛同できるか」と尋ねる、という方がいらっしゃる。実は、この問いかけはとても重要である。もちろん、入社後に、社内の誰もそのMVVに沿った動きをしていなければ、単なる壁にかけた言葉になるわけだが、これを常にスタッフにリマインドするような環境やしくみ、KPIを作り、頭に叩き込ませている会社は強い。
3. 人の雇用と企業へのインパクト
会社は間違いなく「人」で動いている。それは業界問わずである。その点でも、会社を動かす原動力になる「人」をどう採用し、会社の方向性や、MVVとどう合わせていくかというのはマネージメント側に課された大事な仕事の一つだと言える。
人を採用する時の労力、雇った人に適切な教育を与え、会社の戦略や方向性を理解してもらった上で、キャリアパスを踏ませる、という一連のマネージメント側の並々ならぬ努力や苦労は容易に想像がつくが、これら一つ一つに気を抜かず丹精込めて作り続けている会社を拝見するにつけ、スタッフ一人ひとりの会社へのインパクト、影響力を感じずにはいられない。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.163(2010年03月15日発行)」に掲載されたものです。