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Employer's Voice

2010年4月5日

「理念」を共有できる人材を求めて

アルビレックス・シンガポール CEO兼マネージングダイレクター 是永大輔 業種:スポーツ

スポーツクラブは皆さまから様々な形で支援を受けて成り立っている企業である。また、人材採用のサンプル数もさほど多くはない。だからこの場で人材について語るなど甚だ恐縮なのだが、せっかくの機会なので「欲しい人材」について書かせていただく。

 

弊クラブは40名ほどの所帯である。サッカーボールを蹴る人間、それを指導する人間、そして、それらを取りまとめていく人間。特殊な職業であるためか、それぞれの個性は他の一般企業と比較してかなり強いと認識している。現在、取りまとめ役のフロントスタッフは私を含めて6名。決して十分な人数ではない。日々、「勉強せねば」と実感することが降りかかってくる職場環境である。

 

まず、「理念」を共有できる人材が欲しい。クラブの理念は親会社であるアルビレックス本体から引き継いでいるものが3つ。そして、弊クラブで加えたものが1つある。

  • 未来ある子供達に「夢を与えられる人づくり」に貢献します。
  • 地域の人々と共に「活気あふれるまちづくり」に貢献します。
  • 地域と世界を結ぶ「豊なスポーツ文化の創造」に貢献します。
  • 日本とシンガポールの「架け橋」となります。

 

全ての業務をこの理念に沿って行わなければならない。前述のようにフロントスタッフ数の少ない現在、現場での瞬間的な判断が勝負となる場合が多い。当然だが一つ一つの事業の目的や基本的なルールは理念から掘り下げている。だから理念を共有できる人材でなければ一緒に働くことは難しい。とりわけ、理念を意識できない自己中心的な人材ではスポーツクラブは成り立たないと強く感じている。我々は利益を追求している企業ではない。利益は社会や地域に還元するということがスポーツクラブのミッションだ。概念的にはNPOに近い。

 

私自身はそんな認識であったから、私がこちらにやってきた2007年当時、スタッフからの要望に度肝を抜かれた。年間計画についてスタッフたちと話をしていると、「仕事が増えるなら給料をもっと上げてもらわないとやりません」、「日本には月に1回帰らないと困ります」、「家賃の補助金額を上げてもらわなければ辞めます」などなど、年間計画について話をしたいのに業務以外の要求のみが続々と上がって来るではないか。これでは理念を共有することなど夢のまた夢。折しも立ち上げから5シーズン目とあって、スポンサー企業の姿勢にも変化が出始めていた時期。「結果を出してから要望を」とそれぞれを説得したのだが、納得できない人間はしばらくしてクラブを去っていった。引き継ぎもままならず何人かの人間がいなくなったため、右も左も分からぬまま進むしかなかった当時はとても大変だったが、今はそれで良かった、と思っている。

 

また、実行したプランをきちんと振り返ることのできる人材を求めている。PDCAのサイクルを、個人として意識して取り組む人材が大変に重要である。口幅ったい表現だがスポーツクラブの商材は「夢」である。「夢」には限りがない。分かりやすい例を挙げると、「夢」がリーグ優勝だったとする。いざ優勝を果たした瞬間にそれは現実となり、2年連続で優勝を果たしたとすればそれは当たり前の出来事となる。つまり、顧客からすれば、昨日の「夢」は、今日の「当たり前」になるということだ。一つ一つの業務をPDCAのサイクルを意識して取り組むことで、一つ一つがレベルアップしていく。だから、顧客の「夢」をいつまでも創り続けることができるのだ。

 

最後になるが、「恩返し」の心を持った人材が欲しい。スポーツクラブはたくさんの皆さんに支えられて成り立っている企業である。スポンサーの皆さん、サポーターの皆さん、そしてサッカースクールやチアリーディングスクールの子どもたち、もちろん、地域の方々の協力にも支えられている。そんな皆さんの想いが少しずつ紡がれたカタチが、我々スポーツクラブなのである。主体的に働いているという熱意がベースにあるのは当然として、良い意味で「働かされている」、「この場所で働かせていただいている」というイメージを明確に持ち続けられる人材であれば、「恩返し」の心を業務に生かすことができる。そうすればクラブを中心としたコミュニティは自然と拡大していくはずだ。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.164(2010年04月05日発行)」に掲載されたものです。

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