2011年4月4日
シンガポールにおける社員の採用雑感
Yamato Transport (S) Pte. Ltd. マネージングダイレクター 戸田 直樹 業種:物流サービス
シンガポールにて「TA-Q-BIN(宅急便)」がスタートし、早1年余が経過しました。幸いなことに、日本人のお客様のみならず、ローカルの皆様にもご好評をいただき、感謝しております。
私は、2008年にシンガポールに着任以来、TA-Q-BIN事業の立ち上げと運営に従事してきました。私にとっては初の海外勤務であり、日本国内で提供していたサービスである宅急便を全く新しい市場で展開するにあたって、日本との勝手の違いに苦戦しつつも、試行錯誤を繰り返しながら、ようやくここまで辿り着いたという感があります。今回は、その中でも最も重要なファクターとも言える社員の採用について、私なりの雑感をお話ししたいと思います。
まずは当社の目標についてご説明します。当社の事業は「運輸業」に属するものの、TA-Q-BIN事業の本質は、お客様に様々な付加価値を提供する「サービス業」であると考えています。特に今回、後発企業としてシンガポールで成功するためには、シンガポールの常識や価値観を変えるようなダントツのサービスを提供することで、他社との差別化を図ることが重要です。皆さんもご存知のように、例えば、シンガポールの日系レストランに入ると、店員さんが元気良く「いらっしゃいませ」と出迎えてくれます。日本人には普通に「日本的」と映るかも知れませんが、ローカルの方にとっては、当初はさぞや滑稽なシーンに映ったのではないでしょうか。しかし、今ではこれが、シンガポールの日常となっています。こうした何気ない生活のワンシーンとして、TA-Q-BINをシンガポールの生活の一部に溶け込ませること、これが我々の大きな目標であり、これを具現化していく人材を求めているわけです。
しかし、採用活動も平坦に進むわけではありません。事業開始当初、約30人体制でスタートしたセールスドライバーも、事業拡大とともに現在では137名まで増加しました(2月末)が、この裏にはいくつもの困難がありました。
まず第一に、社員を募集しても、当社が求める人材がなかなか集まらない。その原因の一つは、「TA-Q-BIN」の認知度が低く、事業内容や業務内容が不明であったため、就職する魅力が膨らまなかったという事情があります。現在では、人材紹介会社に仕事紹介のDVDを貸与するなど対応しておりますが、今でも毎月入社する社員の中で、もともと当社を知っていた社員は全体の1割にも満たないというのが現状です。
次に、新入社員の定着が悪く、「入れては辞め、辞めては入れる」という悪循環が続いた時期がありました。新入社員の方々の入社後に体感した当社の求める「期待値」について、入社前のイメージとのギャップが大きかったことなどが退社原因の一つとなっています。では、どのようにこれらの問題を解決すべきでしょうか。
サービス業である当社としては、提供するサービスの品質こそが重要であり、それを担う「社員の質=会社の命運」となるわけです。社員のモチベーションを高めて、個々人の最大のパフォーマンスを引き出すことが、目下の課題であると認識しています。とは言え、シンガポールにはジョブ・ホッピングの文化があります。会社が社員を一方的に引き留めることは難しいことです。特に、当社は20代~30代前半の若手を中心に採用しており、まさにその影響は大きいと言えるでしょう。しかし、当社としては、ジョブ・ホッピングは想定の範囲内であると考え肯定し、それよりはむしろ、若手が次の会社に就職する為のワンステップとして、また自分を高めるための一過程として当社を選んでいただきたい。そして、他社の人事担当者からも「ヤマトの出身であれば大丈夫」というお墨付きをいただけるような会社に成長したいと考えています。
当社の強みは、日常業務を通じて「おもてなし」の精神を身につけられるところにあると思います。すなわち「コンシューマー起点のサービスマインド」を養える。お客様が求めているニーズを的確に察知し、自発的にサービスを提供できる社員にまで成長することは、大変ハードルの高いところではありますが、一旦身につければ社会の様々なシーンで応用でき、汎用性が高くなると思います。こうしたスキルを武器に、やる気にあふれる社員によって高品質なサービスが提供できれば、ブランドの向上と認知度の向上が図れます。シンガポールの誰もが耳にした事のある会社となることで、誰もが「働いてみたい会社」にまで育て上げることが、私の使命であり、その実現に向け、日々の自助努力を積み重ねて行きたいと思います。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.186(2011年04月04日発行)」に掲載されたものです。