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2011年4月18日

創造的な付加価値をつくれる集団にするにはどうすればいいのか?

Yamaha Music (Asia) PTE LTD マネージングダイレクター 堀江史浩 業種:卸小売業、サービス業

事業ビジョンとは平たく言うと、「どんなお客様に、どんな価値を提供し、そしてどのように儲けるか、その仕組みを構築する」という事になります。情報社会では簡単にマネされるので、成功したビジネスモデルの優位性は長続きしません。中長期的に維持可能な競争上の優位性を築くためには、「創造的な付加価値をつくれる集団になる」ことが重要です。

 

事業ビジョンは、組織・人材ビジョンと表裏一体の関係。競争力の高い会社にするには、価値提供を持続的に生み出す為の組織・人材のビジョンを具体化する事です。「どのような人材の、どのような行動か、それを生み出す組織・人材マネジメントはどうあらねばならないのか」、この解を見つけることが大切です。これが、短い駐在期間の現地法人責任者としてのミッションだと思っています。

 

1966年創設のYamaha Music (Asia) PTE LTDは今年45周年。従業員135名、講師280名、日本人駐在員1名、シンガポールの日系企業の中で、最も古い企業のひとつです。日本国内の「子供たちにピアノを売るだけではなく、教室を通して価値を提供する」ビジネスモデルをシンガポールに導入し、1975年にプラザシンガプーラ内に3,000平方メートルの巨大な楽器売場と音楽教室を作り、本格的にビジネスが拡大しました。ピーク時は、全6拠点で生徒数2万人を越えていました。この数字は、おそらく人口比率では世界ナンバーワンだったと思います。現在はこの成功したビジネスモデルを模倣する競合も数多くあります。小職の駐在期間は、この事業ビジョン、組織・人材ミッションを見直す丁度良いタイミングなのでしょう。

 

2009年4月着任後すぐに、新しい事業ビジョンを描きました。それを実現させる「組織・人材ビジョン」を具現化させる為、以下の手順で行動しました。

  1. 創設者Mr. Yoの思考・行動パターンを知る為、ベテラン社員数人からヒアリングを繰り返す。
  2. 全従業員135人と2ヵ月かけて個別面談。全社員の入社動機、思考や発想パターンを調査。
  3. 事業ビジョンを実現する為に、社員に求める思考・行動パターンを「コア・バリュー」として纏める。
  4. それらの思考・行動を人事評価システムに組み込む。
  5. 「マーケット・リポート」を発刊し、思考・行動パターンを全社員で共有するオープンな風土をつくる。

ビジョンに共感した人が集まって、家族の様なコミュニケーションを通して、自然に人が育って行く。伝統・文化が継承されていく。会社のカルチャーを育成するためには、創業期の魂や原点という土台の上に、社員のあるべき姿を「コア・バリュー」に纏め、この価値観を繰り返し言い続けることが、会社を中長期的に成長させる「エンジン」になると信じています。

 

着任後2年で2店舗、それぞれ、マリーナスクエアとITE College West校内に、店舗+教室の拠点をオープンさせました。従来のお客様(子供)とは対象が違い、異なる店舗コンセプトになっています。シンガポール国内に8店舗になり、あと3年で3拠点をオープンし、全11拠点にする計画がありますが、少し俯瞰してみますと、これらの形あるもの(投資)は、やがて、顧客・市場の変化によって統廃合を余儀なくされます。なぜなら、10数年後は、人口動態、市場特性、競合状態、顧客の行動パターン等は必ず変わるからです。やはり、大切なのは、企業の伝統・文化を継承させる為の人・風土作りだと思います。

 

この会社は45年の歴史がありますが、幸いにもベテラン社員が数人残っています。ベテランと若手をひとつのチームにし、次世代のリーダーを育成する事が重要なテーマです。組織横断的なプロジェクトを10作って、10名の若手を選びましたが、机上のミーティングより、実践の「場」を与える事が人材育成の近道だと、最近気が付きました。事業ビジョンに共有してくれそうな30歳前後の2人を新店舗の拠点長に抜擢しましたが、彼らは本当に苦労し、多くの失敗をし、そこから多く学んでいます。イライラする事も多いのですが、「あの頃の自分よりマシじゃないか」と思うと、不思議と楽になります。今年は、駐在期間の折り返し地点、「人を残したい」という思いが強まっています。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.187(2011年04月18日発行)」に掲載されたものです。

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