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Employer's Voice

2011年3月11日

この一年の人事関連の仕事を振り返って

ステラケミファ シンガポール マネージングダイレクター 石崎賢一 業種:化学、製造業

シンガポールの当社に赴任してからほぼ1年半が過ぎました。現職に就いてちょうど1年になります。当初は現場出身のエンジニアであったことから、工場運営さえ出来ていれば、会社としてもきっちり数字が挙がり問題ないだろうと考えていましたが、日本と違い人材の流動性の激しいシンガポールでは、人材に関する仕事も重要な仕事のひとつであるということが次第に分かってきました。

 

まず最初に出くわした問題が、オペレーターの不足でした。話には聞いていましたが、気を抜くとすぐに人手が足りなくなります。当社は製造業なので、彼らがいないとすぐに製造が止まってしまいます。ましてやこの好景気の最中に人手不足での機会損失などあってはならぬもの。まずはオペレーターの十分な確保という事が重要な課題となったわけです。しかし、いざ募集をかけてみると意外と人を雇うということは難しく、なかなか思うように集まらない。また、入社してからもしばらくは、社内研修やら安全講習やらで、なかなか戦力として使えない。そういった経験から、募集をかけて使える人材になるまでのリードタイムと退職頻度から、適正人数に対してどれだけ安全率を見て、人材を確保するのかということを決めることが重要であると気付きました。こうして、ある程度の安全率をみた人材確保をしていくようになってから、オペレーターの不足という事態は解消されていきました。

 

人手不足がひと段落して今度は、中長期的な目標として、中核となる人材の育成に取り組むことにしました。こちらの方はオペレーターの確保以上に、非常に難しい課題です。ご存知のとおり、シンガポールではジョブホッピングと呼ばれるように職を転々とすることが当たり前に繰り広げられ、職場定着率はあまり良くありません。また、家族を非常に大事にするので、定時になったらきっちり仕事を終えて帰るし、有給休暇だってきっちり全部取る。少し前の日本で言うところの中核を担う社員とはまったく別の存在です。こういった環境の中で中核となる人材を育てるというのは、大変な作業です。はっきり言ってこれは無理なことでした。

 

そこで、個人に頼るのではなく、組織的に仕事をさせるようにしていきました。前述のようなシンガポール人の特徴からすると、逆に中核になる人材を育てることの方が非常にリスキーです。まずは中核となる人材が抜けてもスムースに運営できる組織を作ることに着手し、そして中核になる組織を作っていきました。最初のうちはこれでうまく機能すると思っていましたが、組織を作ってしまうとどうも縦に硬直的になってしまうようで、部門をまたぐような仕事に対して、責任の所在があいまいになってしまいました。そこで、具体的には単純な事ですが、私も含めて各部門の代表者何人かと、毎日始まりと終わりに10分程度のスモールミーティングを設け、その日の予定とその日の実際の仕事内容について、お互い報告しあうようにしていきました。最初のうちは淡々と報告が行われるだけのミーティングでしたが、続けているうちに、自部門のなかで起こっている問題の相談などが出てきて、互いに協力して解決するようになってきました。

 

元はというと、これは私自身がダイレクトに情報発信をすることと、ダイレクトに現場レベルの情報を収集することを目的で始めたものであったのですが、いつの間にか彼らにとっても、互いの情報知る大事なミーティングとなっていたわけです。今までは自部門のことさえ考えていれば良かった彼らが、他部門の問題や、部門間をまたがる問題についても考えられるようになり、互いに関連する内容について、きっちり彼らで議論をするようになりました。やはり組織というのは作るだけではなく、機能するための、何らかの起爆剤が必要であるということを強く認識させられました。

 

今も現在進行形で、人材育成、組織の活性化ということについて、日々頭を悩ませています。何回か経営者の方の集まる勉強会に出席して、人事に関するテーマについて議論したことがありましたが、そこでは人材の選び方から、育て方まできっちりと理論付けられていて大変感心させられたことを記憶しています。如何に人材を有効に活用するかということが、企業としての競争力につながってくるという考え方は、エンジニアが如何に効率よく物を製造するかという考え方と非常に類似しています。今後も物つくり同様、人材育成にも試行錯誤を繰り返して効率化していかなければなりません。資源のないシンガポールではそこに住んでいる人そのものが資源であり、その資源の有効活用こそが、企業の競争力となるわけですから。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.185(2011年03月11日発行)」に掲載されたものです。

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