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社説「島伝い」

2010年3月15日

明らかになった後

日本政府が存在を否定し続けてきた1960年の日米安保条約改定時の2つの密約と沖縄返還時の2つの密約に関して、外務省の調査報告書と有識者委員会による報告書が公表されました。特に沖縄返還時に交わされたとされる有事の際の核持込についての密約は、端的に言うと米国が有事対応で必要と事前に申し入れれば日本はそれを認める、というものでした。

 
このいわゆる「核密約」が交わされたのは1969年、東西冷戦のさなか、米ソの代理戦争でもあったベトナム戦争でベトナムの社会主義化阻止に米国が躍起になっていた時代でした。その後、東西冷戦が80年代末に終焉を迎え、米国の軍事政策の転換に伴って91年以降は米海軍の航空機や艦船への核艦載がなくなり、2000年には米国公文書の公開で密約の内容を表した文書の存在が明らかになったものの、日本政府は「核密約」の存在を問い質される度に否定し続けてきました。

 
今回、それが覆されたことで、「政府は国民を欺いていた」という憤りの声、あるいは「歴代の自民党政権ができなかったことをやった」と評価する声、「自民党政権の評判落としのためではないか」と見る声など、様々な反応が出ています。

 
核密約があったこととそれを無いと日本政府が言い続けて来たことが公に明らかになった今、重要なのは今後の対応。例えば、今回の調査課程で様々な問題点が明らかになった外交案件の記録のあり方や、「30年公開原則」にのっとった外交記録公開制度の運用上の問題点などを改めるために過去の事実関係を把握することは大事ですが、日本政府が言い続けていたことは違った、で終わってしまっては、単に政府に対する信用を損ね、政治不信を増長させるだけになる恐れがあります。それは日本国内だけの話ではありません。海外からも、日本という国がこれからどうしようとしているのか、良くも悪くも常に見られているということを忘れてはならないでしょう。

 
間違っても政界内の単なる足の引っ張り合いによる茶番のひとつに終わらぬよう、日本としての今後の方向性をしっかりと示す現実的な対応を切に願っています。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.163(2010年03月15日発行)」に掲載されたものです。

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