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社説「島伝い」

2014年12月15日

喜んでばかりいられない

日本円やマレーシア・リンギ、豪ドルに対して、シンガポール(S)ドルが最近急騰しています。Sドルの収入がある人にとっては、日本やマレーシア、オーストラリアへ旅行する際に現地での移動や宿泊、食事、買い物などが割安になるのはやはり気分が良いでしょう。ちょうど11月半ばからのスクール・ホリデー・シーズンに重なったこともあって、シンガポールから日本への旅行客も増えているようです。
シンガポールを拠点にする企業にとっても、例えば日本やマレーシア、オーストラリアからの輸入品についてSドルを元手に決済する場合、為替差益が発生するというメリットがあります。しかし、シンガポールでの事業資金が本国からの送金で賄われているプロジェクトなどにとっては、為替差損を被って資金が目減りしてしまう恐れもあります。自分達のせいではない理由で資金繰りに悩まされるというのは、少々理不尽な感じさえするかもしれません。
大規模な多国籍企業は、自国の本社以外に統括拠点を複数の国に配置し、為替リスクにもある程度対応できます。しかし中小企業の場合、国外に拠点を持たない企業も少なくありません。日本では、米ドルに対しても円が急激に安くなっているため円安倒産の増加が懸念されています。今後は為替リスクの軽減を重視した海外進出が増加し、その進出先としてシンガポールを選ぶケースも増えるかもしれません。
また、シンガポール国外の人材にとっても、Sドル高によってシンガポールで働く魅力が増すことが考えられます。そうなると、近年厳しくなった外国人雇用に関する規制が一層強化されることも十分あり得ます。外国人の人材を必要とする企業にとっては、Sドル高の影響を思わぬ形で受けることになるかもしれません。
記録的なSドルの急騰はもはや為替相場での出来事に留まらず、これから様々な面で影響していく可能性があります。その影響は、取引の大部分がシンガポール国内で完結する企業や個人にさえ及ぶことになるでしょう。今はSドル高を喜べる状況にあるとしても、為替相場の今後の行方に注視し、大きな変化にも適切に対応できるよう用心する必要がありそうです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.271(2014年12月15日発行)」に掲載されたものです。

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