シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP現れる大国インド

インドビジネス基礎情報

2006年5月15日

現れる大国インド

欧米企業のインドへの関心は、極めて高いものがあります。なぜこれほどまでインドが注目を浴びているのでしょうか?日本人にとってインドのイメージは、比較的最近までターバン、蛇使いとカレー、なんとなく貧しい国という程度で、心理的にも遠い国でした。

 

 

私はオフショア・アウトソーシングを通じてインドに関わり、日本の顧客にインドとの取引を勧めて5年以上になりますが、最初は「全く想定してなかった」、「中国との取引を軌道に乗せるのに手一杯で、インドまではとても手が回らない」といった反応がほとんどでした。当時製造拠点としての中国シフトはブームでしたが、インドはまるで眼中にない状況でした。

 
しかし昨年あたりから、この流れに変化が生じてきました。それは、中国の反日で中国一極集中のリスクが認識されたことなどもありますが、インド自体が持つ潜在力が認識されてきたことがあります。

 

 

最近インドの経済成長率は6〜8%で、中国をやや下回る状況で推移していますが、今後中国を上回り、世界で最も高い成長率を達成すると見られています。理由として、第一に若年人口の圧倒的な多さがあります。インドの人口は、03年時点で10億6,400万人で、半数以上は25歳未満です。逆に中国では一人っ子政策の影響で高齢化がすすみ、30年後には減少に転じると見られています。

 
またインド全体の国民所得は年間540米ドルで、世界159位と低いのですが、3,000米ドル以上の中産階級が1億5,000万人と日本の人口をすでに上回っており、今後10年で今の14倍に達するとされています。この増え続ける中産階級が、市場としてのインドの魅力を高めています。

 

 

このような経済成長をインドにもたらし、インド自体の市場性が注目されるまでになったきっかけは1990年にあります。
独立以来インドは社会主義的計画経済を指向し、非効率と官僚主義がインド経済を苦しめてきました。財政赤字、経常収支の赤字が膨張し、1990年には国家としてデフォルト(債務不履行)寸前にまで追い込まれました。この状況で成立した国民会議派のナラシム・ラオ政権は、エコノミストで現首相のマンモハン・シン氏を財務大臣に指名し、「新経済政策」を発表しました。この政策は、

  1. 産業許認可制度の撤廃などの規制緩和
  2. 国営企業の民営化、外資規制の緩和
  3. 関税引き下げや補助金廃止などの競争政策の導入

です。これによりインドは独立以来堅持してきた統制経済を、市場経済へと転換することになったのです。中国の改革・開放政策が始まってから13年経った時のことでした。

 

 

この経済の自由化、規制緩和政策に、世界的な経済のグローバル化の流れが加わり、最も成功した産業がソフトウェア産業でした。次回は自由化の道を歩むインドに、IT革命との関係から現状認識へと進めていきます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.074(2006年05月15日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP現れる大国インド