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インドビジネス基礎情報

2008年2月18日

インドIT業界の地域的・収益的特徴(IT7)

今回はITの7回目で、インドIT業界の地域的・収益的特徴について述べ、IT業界の課題は次回示すこととします。

 

 

インドのITサービス産業は全国に広がっていますが、中でも南部と西部に特に集積しています。インド・ソフトウェア輸出額上位5社の本社を見ると、第1位のタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は西部ムンバイ、第2位インフォシスと第3位ウィプロが南部バンガロール、第4位サティヤムも南部ハイデラバード、そして第5位のHCLは北部ニューデリーです。

 
南部は、北部、西部に比べて人件費が安い地域ですが、ITではその差はあまりありません。また、特に上級技術者はバンガロールに集まる傾向があります。ただバンガロールは交通渋滞が激しく、インフラ整備が課題となっています。

 
インド東部は発展が遅れていますが、逆に人材の確保と言う点では魅力的です。TCSは、日本の顧客を対象にソフト開発やデータ管理などの委託を受ける「ジャパンオフショアデリバリーセンター」を、東部コルカタに開設しました。同センターでは日本語を話すスタッフを2009年までに500人に増やす計画です。また、TCSやインフォシス、ウィプロなどIT大手は、製鉄所建設ラッシュに沸く東部オリッサ州で拠点を増強するなど東部も開拓しています。

 
2007年10月に富士通コンサルティングは、北部ノイダにインドにおける4番目のオフショア開発拠点を開設しました。この場所について富士通コンサルティングは、北部が南部、西部に比べて人材の確保が容易である点をあげています。

 

次にインドIT業界の特徴のひとつである、大企業中心の構造とその高収益体質について述べます。

中国のソフトウェア企業数は1万社以上あり、その7割は従業員50人以下の中小企業であるのに対し、インドのソフトウェア企業数は3,300社で、大企業中心の構造となっています。インドIT大手は、TCSが108,000人、インフォシスは89,000人、そしてウィプロは80,000人という巨大な社員数で、2007年度も2万人以上という大量採用を続けています。日本にはプログラマ/システムエンジニアが約35万人いますが、これらインド上位3社でその3分の2以上もの人数を抱えていることになるのです。

 

 

インドIT企業は、当初はプログラミングやテストといった下流を中心に請け負っていましたが、次第に設計といった上流工程や、コンサルティング、研究開発といった高付加価値領域にまで広がっていきました。現在では、IT業務の一括管理といった広範囲の業務も受けるようになってきています。

 

 

インドの人材の供給力を武器に、巨大なシステムの管理や開発の業務がインドIT大手に集まったことで、その会社にプロジェクトマネジメントの経験やノウハウが蓄積されることとなり、さらに力がついていくという好循環になっています。例えばTCSは、2007年10月にオランダのニールセン・カンパニーから10年間で12億ドルという大規模なアウトソーシング業務を受注しています。

 

 

そしてこれらIT大手企業の特徴として、利益率の高さがあげられます。売上高営業利益率で見ると、最大手のTCSは26%、インフォシスが33%、そしてウィプロも18%もあります。この要因としては、インドIT企業の管理能力の高さがあげられます。大手ソフト企業の契約に基づくプロジェクト完成率は96%以上で、トップベンダーの一つであるウィプロでは99.3%に達します。このように納期、品質、コストに対するマネジメント力は非常に高いものがあります。調査会社フォレスターでは、インドIT大手は経験を積んで成熟しつつあるとし、人件費の低さと、ハードウェア部門がなく在庫がないこと、そして効率経営により利益率が高いことなどを評価しています。インド企業は成長が顕著なことに加えて利益率も高いため、豊富な資金を戦略的な投資や研究に振り向けることができ、それにより成長を持続させる戦略です。

 
一方日本の情報サービス企業は、JISA基本統計調査によると、2007年度の日本企業の営業利益率は6.34%と低く、この利益率の低さは日本企業全体に共通する問題点となっています。

次回は宗教の7回目で、梵我一如(ぼんがいちにょ)思想について述べていきます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.116(2008年02月18日発行)」に掲載されたものです。

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